ゾンビ問題に対する思考実験として ダニエル・ドレズナー著 谷口功一・山田高敬訳『ゾンビ襲来 国際政治理論で、その日に備える』

 

 自分は結構ゾンビものが好きで、このブログでも押井守氏の『ゾンビ日記』や、マックス・ブルックス氏の『WORLD WAR Z』、ゾンビものに萌え要素を持ち込んだ池端亮氏の『あるゾンビ少女の災難』等の感想を書いて来た。しかし、遂にゾンビものは国際政治学の分野まで感染を始めたらしい。書店で本作を探した時に、サブカルチャー関連の書架にあるのかと思っていたら、本当に国際政治関連の書架にあったので失礼ながら笑いをこらえるのに必死だった。一体どれだけ本気なのかと。

 ゾンビものにまつわる「どこまで本気なのか」というものは他にも色々とあって、アメリカでは大真面目に『対ゾンビ用銃器・弾丸』や『対ゾンビ用ナイフ』等が売られているそうだ。しかも、「危険なのでゾンビ以外には使用しないで下さい」という注意書き付きで。ジョークグッズではなく、実際に殺傷能力がある武器までゾンビ関連グッズとして売り出してしまうあたりがいかにもアメリカであり、皆どんだけゾンビ好きなんだよ、という感じなのだけれど、実際こういう与太話を真面目に考えるのは結構楽しい。例えば「実際に今ゾンビに襲われたらどうやって生き延びるか」とか「対ゾンビを想定した際に有効な武器とは何か」とか。これらの問題はぶっちゃけ「そんな事考えても仕方ないだろ」と言われる様な事だし、大の大人が真剣に考察する必要性も皆無なのだけれど、それをあえて大真面目に論じる事は各界の専門家達にとっても楽しい遊びなのかもしれない。

 さて、本著は上記した様な個人レベルでのゾンビ対策ではなく、国際政治学の分野でゾンビ問題を扱っている。例えば実際にゾンビが人間を襲い始めたら、リアリストは、リベラルは、そしてネオコンはそれぞれの立場からいかなる行動に出るのだろうとか、各国が取り得る外交戦略はいかなるものだろうとか、そういったテーマで大真面目にゾンビ問題を扱っている訳だ。それを「不真面目」と捉えるか、自分の様に面白がって読むかは人それぞれだと思う。でも繰り返しになるけれど、個人的にはこういうノリは好きだ。

 アメリカでは最近も、『スターウォーズ』に登場する帝国軍の宇宙要塞『デス・スター』を実際に建造して欲しいという内容で3万人以上の署名が提出され、政府に回答義務が生じるという事があったそうだ。まず、そんなふざけた内容の署名が3万人を超える数集まるという事に驚くが、提出を受けた政府側もそれを一笑に付して黙殺するのではなく、真面目に建造費用を試算した上で「そんなに巨額の建造費用は捻出できない」と回答するあたり気が利いている。(ちなみにデス・スターの建造費用は85京ドルだそうだ)更に「1人乗りの宇宙戦闘機に左右される様な致命的弱点がある事」もデス・スター建造の問題点として挙げる等、スターウォーズを知っているファンからするとちょっとニヤリとさせられる部分もあって、こういうのがユーモアのセンスがある大人の回答という奴なのだろうなと思う。多分、日本で同じ様なやり取りがあったら「税金使って遊んでないで真面目に仕事しろよ」と各方面からのバッシングがありそうだけれど、個人的にはこれくらいの余裕があった方が楽しくていいじゃないかと思わなくもない。まあ確かに年中こんな事をやって遊んでばかりでも困るけれど。

 話をゾンビに戻す。デス・スターの話とも少し重なるけれど、ゾンビという実在しない脅威を想定して大真面目な議論をして何になるのかというと、これは当然現実的には何にもならない。まあゾンビに襲われた際のサバイバル方法の中には自然災害に被災した場合に応用出来るものもあるかもしれないけれどね。非常用の持ち出し袋を常備しておこうとか。しかしそうした応用ではなく、直接的に意味があるかというと、多分「面白い」という以外の意味は無いと思う。でもそういう事に取り組むユーモアを持つ事は大事だし、実際本著の様に専門知識に裏打ちされた確かな内容であれば、ゾンビ問題以外の現実問題に置き換えて考察する事も出来る訳だ。そういう意味で本著は国際政治学入門の更に入門編と捉える事も出来るだろう。まあ個人的にはそこまで難しく考えずに、娯楽作品として楽しんでしまったけれどね。

 

テーマ : 国際政治
ジャンル : 政治・経済

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地方の片隅で今日も黙々生息中。

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