優しさと清々しさと・柴村仁『オコノギくんは人魚ですので 1』

 

 小説に対する褒め言葉としてはどうなのかと思うけれど、まずこの表紙が凄く良いと思った。本作を読み終えた後でもう一度この表紙を見てもらえれば、その意味もわかってもらえると思うのだけれど。

 さて、本作は『人魚』が存在するなど、微妙に現実世界とはずれているものの、基本的には現代日本の高校を舞台にした作品だ。主人公のナツが通う城兼高校には、ときどき人魚が転入してくる。同じクラスで、ナツの隣の席のオコノギくんもまた、そんな人魚の一人だ。陸上で暮らす人魚は人間そっくりに擬態して日常生活を送っているので、見た目だけで人間と区別する事は難しいのだけれど、やはり人間ではない彼はどこか普通の男子高校生とは違う。そんなオコノギくんの周りで起こる様々な出来事を色鮮やかに描き出す本作は、読んでいてとても清々しい気分になる。何より、人魚のオコノギくんの性格がとても良い。純朴であり、朗らかだ。人当たりも良い。かと思うと好奇心旺盛で、周囲の皆が思いもよらない行動に出たりもするが、それもまた良い。そんな彼が「人魚である」という所に本作の面白さがある。

 人魚と聞くと、人間の下半身が魚になっている姿を想像しがちだと思う。しかし本作を読み進めて行くと、どうやら本作に登場する『人魚』はそういう姿ではない様だ。では海の中で人魚はどういう姿をしているのかというと、これがまた謎に包まれている。確かな事は、好奇心が強い人魚達の中でも、特に地上で暮らす強い目的や目標を持っている者だけが人間に擬態して地上で暮らす事を認められるのだそうだ。ではオコノギくんが陸に上がった目的は何なのか。それを想像しながら読み進める事もまた楽しい。

 また『人魚』以外にも、物語の舞台となる城兼町には現実にはあり得ない現象や、謎の生き物等が登場するが、この『現実から少しずれた感』が本作の味というか、面白さになっている。こうした「現実離れしたもの」は怪異として描かれる事が多いと思うのだけれど、人魚にしても、それ以外のものにしても、城兼町で暮らす人々にとっては日常の光景になっていて、自然に受け入れられている。その日常の風景は、何というかとても優しい。

 本作はシリーズものという事で、早く続きが読みたいところ。オコノギくん以外の登場人物達も、皆それぞれ何やら色々なものを抱え込んでいる様なので、それがこの先どんな物語に繋がって行くのか今から楽しみで仕方ない。

 

テーマ : 本の紹介
ジャンル : 小説・文学

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私はこの作者様の他の作品からファンになりました(^^)
それはプシュケの涙という作品なのですが、オコノギくんの表紙を書いてくださった方と同じ方が表紙を書かれています!!
全部で3巻あるのでぜひ、読んで見てください!!

>はるさん

コメントありがとうございます。
お薦め頂いた『プシュケの涙』ですが、未読なのでこの機会に読んでみようと思います。しかしその前に、ここ数日買い込んでしまった本を読んで行かねば。未読が積み重なって行くのは精神衛生上よろしくないので。

さて、唐突ですが自分は忘れっぽい人間で、こうして読んだ本の感想をブログに書いておくのも「読んだ感想を忘れないうちに記録しておこう」という意図があるのです。それではどの程度忘れっぽいのかというと、自分は柴村仁氏の著作を読んだのは本作が初めてだと思い込んでいたのですが、その前にデビュー作である『我が家のお稲荷さま。』を読んでいた事をすっかり忘れておりました。失礼。いや、巻数が増えて行くにつれて途中から追いきれなくなってしまって……と言い訳。

この様に、自分はかなり忘れっぽい上に、結構読書傾向に穴がある(そして偏っている)人間なので、お薦め本を紹介していただけるのは嬉しいです。ありがとうございました。
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黒犬

Author:黒犬
映画と小説を主食に生きている。
地方の片隅で今日も黙々生息中。

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