今求められる「キャラミス」とは?・太田紫織『櫻子さんの足下には死体が埋まっている』

 

 本の帯に『次にくるキャラミスはこれ!』と書かれていたので、「キャラミス」とはなんぞや、と思ったのだけれど、どうやら今は『キャラクター・ミステリ』というジャンルがあるらしい。「次にくる」という事は「今きている」作品も当然ある訳だけれど、テレビドラマ化されて人気を博している三上延氏の『ビブリア古書堂の事件手帖』等がそれに当たるのだろうか。他にもここで感想を書いた作品だと、岡崎琢磨氏の『珈琲店タレーランの事件簿』等が該当する気がする。個人的には、上遠野浩平氏の『しずるさんシリーズ』の続きが読みたくて仕方がないのだけれど。

 本作のタイトル『櫻子さんの足下には死体が埋まっている』は梶井基次郎氏の『桜の樹の下には』で書かれた「桜の樹の下には屍体が埋まっている」という有名な一文をもとにしている。では櫻子さんもまた、その足元に埋まっている屍体から生気を吸い取って美しさを保つ様な恐ろしい女性なのかというとさにあらず。櫻子さんの足下に死体が埋まっているのは、彼女が『骨』を愛してやまない女性だからだ。

 良家のお嬢様である九条櫻子には「生き物の死体を収集し、骨格標本を作る」という趣味があった。まああまり一般的な趣味とは言えないかもしれないけれど、美人というのは得なもので大抵の事はその美貌によって許されるきらいがある。男性がよく自虐的な意味で口にする「※ただしイケメンに限る」という奴も同じだろう。まあそれはそれとして、本作はそんな珍しい趣味を持つ20代のお嬢様と、あるきっかけから交流を持つに至った平凡な高校生、舘脇正太郎の二人が事件を解決して行く短編連作となっている。

 年上で、歯に衣着せぬ物言いが目立つお嬢様と、彼女の無茶な要求に振り回される年下の男子という構図は、まあ安定というか鉄板ではある。それにしてもお嬢様の趣味が骨格標本作りというのは奇抜だけれど、海外ドラマで『BONES』という作品があった様に、卓越した専門知識を有する登場人物が、その知識を駆使して事件を解決に導くという物語は人気がある。しかし、本作の主人公である櫻子さんの骨格標本作りに関する知識が毎回事件解決に直接結び付くかというと、そんな事もない。元々、櫻子さんの骨格標本作りは趣味の範囲なので、『BONES』の主人公の様に法人類学者レベルとまでは行かない。この設定はどちらかというと「何かと事件に遭遇する変わり者のお嬢様」というキャラクターを補強する為のものなのだろう。

 「キャラクターを立てる」というのはライトノベルやキャラクター小説と呼ばれるジャンルの小説では重要だとされる。そういう意味で本作は成功しているし、もうひとつ、作者が北海道札幌市出身という事もあって「北海道を舞台としたご当地小説」としての側面も持っている。既に第2巻の刊行も決定しているという事で、本作の設定に興味を惹かれたら、手にとってみるのもいいかもしれない。個人的には櫻子さんのキャラクターよりも、何かと彼女に振り回される正太郎の方に同情、もとい共感したけれど。

 

テーマ : 本の紹介
ジャンル : 小説・文学

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