決して一人ではいられない僕等は・江波光則『密葬 -わたしを離さないで-』

 

 読み終えて、この『わたしを離さないで』という言葉が、誰から誰に向けられたものなのか考えたのだけれど、個人的には本作のラストシーンでお互いが相手に向けて願っている事だったら良いのに、と思ってしまった。どちらかの一方的な願いを、もう片方が受け止めたり、付き合ったり、背負ったりするのではなくて、お互いが『わたしを離さないで』というシグナルを発していて、繋がっている。それは今この瞬間だけの事かもしれないし、先の事は分からないのだとしても、そんなささやかな願いで人が互いの手を握れるのだとすれば、それこそが『救い』なのかもしれないと思えるから。もっとも、江波作品は自分が思う様な単純な構造では無さそうなので、自分が受け止めた部分以外にもこの『わたしを離さないで』という言葉がかかっている部分はあるだろうと思う。誰から誰に対して? というその事を考えながら再読するのも良いかもしれない。確かなのは、どんなに孤独であろうとしても、生きている限り人は誰かと繋がってしまっているという事だろう。良い意味でも、悪い意味でも。

 先に結論というか本題を書いてしまっておいて何だけれど、前作『鳥葬-まだ人間じゃない-』(以下『鳥葬』)を読み終えた時には、まさかこの物語が続くのだとは思っていなかった。個人的な感想になってしまうけれど、ライトノベルというジャンルにおいて『鳥葬』はかなり異質な作品だと思ったからだ。ただ、その一方で一般文芸的だとも思わなかった。『鳥葬』は『鳥葬』で、確かにライトノベルらしさの様なものを持っていると自分は思う。もっとも、それが何かと尋ねられると返答に窮するのだけれど、この作品を書いたのが江波光則氏であり、レーベルがガガガ文庫であるという所で妙に納得できるというか。上手くは説明できないけれど。

 さて、身も蓋もない言い方をしてしまうと、自分は不良とか犯罪者という人間が好きではない。まあ現実に好きな人間がいるのか、という話もあるけれど、仮に小説や映画といったフィクションの世界の登場人物であっても同じ事だ。一番苦手なのは「元不良や元犯罪者が今は更生してこんなに立派にやっています」といった様なノンフィクションで、自分から進んでそういう作品を見てみようとは思わない。こういう事を大っぴらに言うと批判もあるだろうとは思うけれど、あえて言わせてもらえば、彼等に迷惑をかけられた側からすれば不良や犯罪者がその後更生し、自らの行いを悔いて謝罪しようとも、自分が負わされた肉体的、精神的苦痛が癒える事は無いからだ。陰湿なイジメを受けた側が何年か後になって自分を虐めていた側の人間と再会し、心からの謝罪を受けても素直に受け止める事が出来ない様に。もちろん、彼等が更生する事は良い事だ。一切反省せず、謝罪もせず、何度も再犯を繰り返すよりは余程いい。また人間は誰でも過ちを犯す事はあるし、自分をそこから除外して考えようとも思わない。けれどその一方で彼等が更生したという事が、時に美談として語られる事に自分は納得が行かないのだと思う。更生した彼等は素晴らしい。そこまではいい。では、彼等に傷を負わされた人間の方はどうだろう。一生その暗い過去を引きずって生きて行かなければならないのか。被害者の傷には誰が向き合ってくれるのか。
 自分も清廉潔白な人間だとは言えないし、自分の意思に反してどこかで誰かを傷付けてしまった事はあるだろう。しかし、それでも故意に罪を犯したり、誰かを虐めたり、追い落とそうとしたりはしてこなかったと思う。そういう人間からすれば、かつて罪を犯した人間の物語を素直に受け止める事は難しい。

 上記を踏まえて書くけれど、本作も含めて江波作品の登場人物達には不良や犯罪者が多い。その罪状にしても窃盗や恐喝、学校でのイジメや暴行傷害、殺人や強姦、麻薬取引等、思い付く限りのものが出て来る。普段の自分ならそんな連中に感情移入する事は出来ないし、そもそもそんな事を行う人間を中心人物に据えた物語を読んでみようという気にならない。しかし江波作品については例外的にそうした嫌悪感をあまり感じない。それが自分が江波作品から感じるライトノベルらしさに起因するのかどうかは自分でもよく分からないし、説明も出来ないのだけれど、まだ理由が分からないからこそ自分はこうして江波作品を読んでいるのかもしれないと思う。
 これから先、その本当の理由に気付く事が出来るのかどうかはまだわからないけれど。

 

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