「ひかり」を求めて行くのなら・入間人間『瞳のさがしもの』

 

 瞳が探すものはきっといつも『ひかり』で、でもそれがいつも見付かるとは限らない。

 当たり前の事というか、単純な事だと思う。それを物事の『本質』とか言ってしまうと大袈裟になってしまうけれど。

 本作は短編連作で、きっと恋愛小説に分類されるのだろうと思う。でも自分が思うのは、男女の恋愛という事よりもむしろ「自分は一体何を探していて、それはいつか見付かるのだろうか」という事だったりする。本作の帯には“『恋』とは、『もう片方』を探す旅だ。”と書かれているけれど、その言い方を借りれば、自分が探しているものは自分から欠落している何か、その欠落にはまる何かなのではないかと思う。テーマが恋愛なら、それは『もう片方』の自分を埋めてくれる異性なのかもしれないけれど、そんな出会いはもう奇跡の類で、自分には望めそうもない。だから自分は様々なものを拾い上げては、それが自分にとっての『ヒカルモノ』なのかどうかを確かめている。

 この『ヒカルモノ』と、その反対の『ヨドム』という考え方は谷村志穂氏の小説『自殺倶楽部』からの受け売りだ。自分は高校生の頃に図書館でこの本を借りた。そこにはまあ、タイムリーな事に、とある高校で結成された『海の泡同盟』という自殺志願者達の倶楽部が描かれていて、彼等が死に向かう為に――或いは生きる為に――葛藤する姿は当時の自分にとって生々しいものだった。
 『自殺倶楽部』も広義では恋愛小説に分類される事になる作品なのかもしれないけれど、自分がそれを読んで感じた事はまずヨドムに対する『恐れ』とヒカルモノへの希求で、その感覚はそれ以降の自分のものの考え方に影響を与える事になった。

 高校生と自殺というテーマは、大人になってから読み返すと『若さ故の視野狭窄』の様に思われる事が多いだろうと思う。自分だってそう感じる事はある。「何をそんなに思いつめる必要があるんだ。世の中はもっと広いんだ。君達若者はまだそれに気付いていないだけだ」というのが大人の言い分だ。いつだって大人はそう言う。それこそ自分が子供だった頃から「君達は無知なんだ。だから自殺などと考えるんだ」という事を遠回しに言ってくる。でも子供の側に立って言えば、「なぜ大人はそんなに不真面目に、真剣さを欠いたまま生きていられるのか」という事になるだろう。

 この夢が叶わなかったら、この恋が実らなかったら、この自分が変われなかったら、この先自分が生きている事は無意味で無価値だ。ならば死んでしまおうか。いや、むしろ死んでしまった方がいい……そう思えた頃は誰にでもあって、あの頃はそれだけの『切実さ』を抱えて自分達は生きていた。そして大人になって、夢が叶わなかったり、失恋を経験したり、いつまでも変わる事ができない自分を思い知らされたりする中で、それらを『通過点』として自分達は生きて行く様になる。だから大人は若者に言う。「君達が今直面している問題もまた通過点であって、その先の人生があるんだ」と。でもそれはやはりかつて子供だった頃の自分達が嫌っていた『大人の言い分』という奴になってしまっているのだろう。

 遠藤浩輝氏の漫画で『遠藤浩輝短篇集2』に収録されている『女子高生2000』という作品がある。その中で漫画家と編集者がこんな会話をしている。
「矢作さん 初恋っていつです?」
「あ--? 何じゃあいきなり」
「上手く相手に気持ち伝えられました?」
「いや……別にどうする事もできなかったよ。 最初は皆そんなもんだろ?」
「「死のう」とか思いませんでした?」
「何で思わにゃならんのだ?」
「……俺は思いましたよ」
「でも今生きてんじゃん」
「……」
「……そうっすね」
 ……これって大人の立場で読むと結構グサッと来る。だからいつまでも記憶に残っているのだけれどね。「でも今生きてんじゃん」っていうその一言は、過去の自分に対する大人になった自分の不誠実さとか、不真面目さとか、逃げとか、そういう柔らかくて脆い部分、できれば触れずにいてほしい部分に突き刺さって来る。

 そして、他の作品に触れたりしつつも話はまた一周して本作『瞳のさがしもの』に戻って来る。自分達が探しているもの。探している誰か。それって何だろう、誰なんだろうと思う訳だけれど、確かなのはきっとそれは自分にとっての「ヒカルモノ」なのであって、異性との恋愛に限らないのではないかと思うのだ。それを求めて行く中にはまた大人特有の諦めとか逃げとか妥協とかがつきまとうのかもしれないけれど、子供だった頃に感じていた切実さが、今の自分の中にまだいくばくか残っているのだとすれば、本作に綴られる様な切実な『片思い』を、ヒカルモノをを求める気持ちを、自分はまだ持っていられるのではないかと思う。……そうであったらどれだけ良いだろう。本当に。

   

テーマ : 本の紹介
ジャンル : 小説・文学

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映画と小説を主食に生きている。
地方の片隅で今日も黙々生息中。

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