流行りものかと思わせつつの温故知新・桜井光『殺戮のマトリクスエッジ』

 

 えー、まず物語の舞台となる次世代型積層都市『トーキョー・ルルイエ』について。本作の世界にもかつてクトゥルフ神話やラヴクラフト氏が存在していたかどうかは定かでないにしろ、一言。「その都市名はヤバい」
 「絶対に裏に何かヤバいものが潜んでいます」と言わんばかりの名前というか何というか、ネタバレもへったくれもない。でもこの辺の身も蓋もないネーミングセンス込みでライトノベルらしさかなと。

 本作について分かり易く例えるとすると、市民の電脳化や電脳ネット等については『攻殻機動隊』の世界観をベースにしつつ、『電脳殺しの牙獣(マトリクスエッジ)』とも呼ばれる、電脳を食らう獣『ホラー』の存在と、その存在を隠蔽しつつ都市運営の実権を握る『企業複合体(レギオン)』、更に企業複合体からの依頼を受けてホラーを狩る『掃除屋(ランナー)』の関係等、『モンスターハンター』に代表される『狩りゲー』的な要素も織り交ぜている。

 そして、それらの材料に対する味付けとして『PSYCHO-PASS』や伊藤計劃氏の『ハーモニー』、また吉上亮氏の『パンツァークラウン フェイセズ』等でも描かれていた「市民の行動を都市が監視し、推奨される行為の選択肢を提示する管理システム」が用いられている。本作で『コマンド』と呼ばれるそれは、端的に言ってしまえば『ドラゴンクエスト』等のそれと大差ないもので、「たたかう」「にげる」の様なコマンドが視界の端に浮かんでいる様なものだ。コマンドが推奨する行動を選択していれば安心ですよ、という形で市民全員が都市の管理下に置かれている訳だが、『ホラー』は電脳ハックによってこのコマンドを狂わせ、市民を餌場までおびき寄せると同時に、逃げるというコマンドを封じる。ハッカーとしての性質を併せ持つ怪物であるホラーに対抗するには、必然的に人間側もハッカーとしての電脳戦能力と戦闘員としての直接的な武力を併せ持たなければならず、少数精鋭のランナーによるモンスターハントという形が必然となる。

 さて、上では「ベースに攻殻と狩りゲー、味付けに昨今流行りの管理社会」みたいな事を書いた。これだけだと確かに「最近の流行りモノ要素を集めてみました」みたいに聞こえるけれど、面白いのが作中に登場する固有名詞の方で、自分くらいのオッサンになるとまず何を思い出すかというとTRPG『トーキョーN◎VA』と『シャドウラン』だったりする。この単語使ったの何年振りだろう、という感じすらあるけれど、作者が本来やりたいのはこっちの方じゃないのかなと思わなくもない。それでも学園モノと萌え要素が適度にブレンドされているのは現代のライトノベル的ではあるけれど。

 と、ここまで書いてから著者名をネット検索したら色々と納得した。

 というわけで、新旧の『良ゲー』要素を集めて今風の物語を構築したとも言える本作。昔TRPGを遊んでいた人間としては新しさよりもむしろ懐かしい匂いがするけれど、今狩りゲーをやっている世代が読んだらこれはこれで結構新しい物語として通用するのかもしれない。

 

テーマ : 本の紹介
ジャンル : 小説・文学

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