現実問題を超えて行く為に・浅井ラボ『されど罪人は竜と踊る13 Even if you become the Stardust』

 

 本作の感想を書く前に、まず身も蓋もない話から入る。いや、何が身も蓋もないかと言うと自分の歳の話だ。
 このブログでは何回か書いていたと思うのだけれど、自分ももう気が付けば30代も半ばのオッサンな訳で、ライトノベルが本来メインターゲットにしている(であろう)10代の読者達からは結構離れた位置にいると思う。当然、同じ作品を読んでも捉え方が違うだろうし、彼等とは違った部分に作品の面白さを感じる事もある。そんな自分が浅井氏の作品を読む時に、いつも面白いなと感じるのは、ライトノベルというジャンルに現実問題を織り込むバランスが絶妙だという事だ。

 ファンタジーでも何でも良いのだけれど、特別な能力や才能を持った主人公が活躍する、所謂『俺TUEEE』系の作品は、読者が感情移入して読む分には確かに面白いのだろう。例えば少年漫画の主人公の様に、とにかく戦闘が強くて向かう所敵なし状態とか、ラブコメ等で、主人公は超鈍感だったり朴念仁だったりするのに、何も努力せずとも気が付いたらハーレム展開になっていて周囲がちやほやしてくれるとかね。読者が主人公に感情移入する時に一番気持ち良いバランスに調整されているというか、不快感を与えないように計算されているというか。

 確かにそうした作品からは読者もカタルシスを得易いだろう。これは個人的な見解というか偏見かもしれないけれど、ライトノベルや漫画、アニメといったジャンルでは特にその傾向が強い様に思う。読者や視聴者に快楽を与える為にキャラクターや世界観が最初から計算されている。そういう作品群にどれだけリアリティを求めるかというのは読む側によると思うのだけれど、少なくとも自分はもう年齢的にそういう作品に乗れなくなって来ている気がする。最初は楽しく読んでいてもどこか乗り切れないというか、飽きが来るというか、途中から嘘臭さを感じてしまうというか……まあ上手くは言えないのだけれど。

 何か毎回『ドラゴンボール』を引き合いに出すのもアレだとは思うのだけれど、典型的なバトルものの少年漫画として一番分かり易いと思うのであえて言おう。よく言われるのは「孫悟空の一家は何で生計を立てているのか」という話だ。ぶっちゃけ地球を一撃で破壊出来る様な力を持っていても、それで暮らして行けるのかという事は本来別問題で、金の問題をはじめとした現実問題というのはどこまでもつきまとう。恐らく毎日の食費だけでエンゲル係数が恐ろしい事になっていそうなあの一家が、天下一武道会の賞金等の不定期な臨時収入だけを頼りに生活できるのかどうかは定かではない。実は各国の代表者が「最悪の生物兵器」が暴発しない様に、また特定の国家に肩入れする事が無い様に、共同で彼等の生活費を捻出しているのだ、という嫌な生活保護について今考えたけれど、あの世界ではそういう現実問題は考えてはいけない事になっている。いや、考えてはいけないというか、考えても仕方がない。誰もドラゴンボールにそんなギスギスした現実問題を描く様な作風は求めていないからだ。ライトノベルもアニメもある意味では少年漫画と同じで、ある程度現実問題から切り離されたところで物語が展開される場合が多い様に思う。ところが『され竜』は、ライトノベルとしては異質な程執拗にそうした現実問題を扱う。

 魔法の様に爆破等の咒式を操れても、珪素生物の巨人や竜を倒す事が出来る程の武力を持っていても、自分の能力を金を稼ぐ為の仕事に活かせなければ生活は出来ない。昔のRPGの様に街の外へ出て適当にモンスターを倒していれば金を落としてくれるという訳でもないからだ。同様に、恋愛感情のもつれや離婚調停、咒式事務所の経営や依頼主との交渉、政治経済の時事問題、学校でのイジメや社会にはびこる不平等とそこから発生する犯罪や殺人等といった現実問題も、ファンタジーだから、ライトノベルだからという事でクリアにはならないし、努力や友情が必ず勝利に結び付くとも限らない。善人が幸福になる保証も無ければ、悪人が必ず報いを受ける訳でもないし、そもそも善悪の基準とはそこまで単純なものではない。

 こうした現実をライトノベルという土俵で10代の若者相手に提示してみせる所に本シリーズの特色がある様に思う。何せ普通のラブコメなら「ヒロインの一人と主人公が結ばれてハッピーエンド。後の展開はご想像にお任せします」とか「主人公は結局誰とも恋人関係にはならないまま、ゆるいハーレム状態がこれから先もずっと続く」などといった最終回がいくらでもまかり通るのが普通であるところを、恋人の妊娠を経て相手の両親に結婚の許しをもらいに行く所までやって、それでもまだ二人が本当に幸せになれるかどうかは何の保証もない、という作品だから、安易に『俺TUEEE』の様な御都合主義溢れる、読者にとって優しく都合の良い世界観に気持ち良く浸らせてくれない。むしろそのぬるま湯から読者を引きずり出そうとするかの様に思える作劇は、自分の様なオッサンからすると「これを読んだ若者はどんな感想を持つのかね」という意味で非常に気になる。いや、本当にどうなんだろう。少なくとも自分は好きだけれど。

 というわけで、仮に本作を『暗黒ライトノベル』とするならば、普通のライトノベルはどれだけ夢と希望と愛に満ち溢れているのかと思ってしまう自分の様な奴にとって、本作は見所が多いシリーズになっていると思う。恐らく次巻は長編で第二部が本格的に開始される筈なので、そちらも楽しみにしたい。

 

テーマ : 本の紹介
ジャンル : 小説・文学

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

黒犬

Author:黒犬
映画と小説を主食に生きている。
地方の片隅で今日も黙々生息中。

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
検索フォーム
Twitter
リンク
RSSリンクの表示
Amazon