その実態はライトノベル作家あるある・時雨沢恵一『男子高校生で売れっ子ライトノベル作家をしているけれど、年下のクラスメイトで声優の女の子に首を絞められている。 1 ―Time to Play― (上)』

 

 最初に一言……タイトル長いわ!!(ここまでテンプレ)

 まあ、恐らくお約束であろうツッコミも終わったところで作品について。本作はその大半が「ライトノベル作家になる為のハウツー本」というか、「ライトノベル作家(ワナビ含む)あるある」と化している。まだ一度も小説(らしきもの含む)を書いた事が無くて、これから作家を目指そうとしているライトノベルファンにとってはタメになる内容が含まれていると思うけれど、今既に作家である人や、作家になる為に執筆を開始している人からすると、その内容の多くは自分でも心当りがある、所謂「あるある」的な内容になっている筈だ。どちらの楽しみ方をするかは読者とライトノベルの関係次第。

 あらすじは長文タイトルの通り。電撃文庫でシリーズ作品を刊行しているプロ作家にして男子高校生の『僕』が、年下のクラスメイトで声優の女の子、似鳥絵里に首を締められている状況から物語は始まる。どうしてこんな事になったのか。『僕』は走馬灯の様に、似鳥と出会ってからの日々を回想する。そしてその回想の中で、似鳥から『僕』への質問の形で、『僕』がプロ作家としてデビューするまでの経緯や、どうやって小説を書いて来たかという事が語られて行く。

 売れっ子ライトノベル作家の高校生が、自分の作品がアニメ化される事になり、しかも出演声優の女の子がたまたまクラスメイトだった為にお互い驚く事になるという展開は、流石に現実にはそうそうあるものではないと思うけれど、それを除けば本作で触れられているライトノベル業界の業界事情は概ね現実に即しているのかなと思う。もちろん自分は業界人ではないので、時雨沢恵一氏の手による脚色がどの程度入っているのかは分からないけれどね。ただ、電撃文庫といえばライトノベルレーベル最大手と言って良い規模のレーベルであり、新人賞の応募総数も年々増加している事を考えると、本作もまた未来の作家を目指す若者が手に取る可能性が高い。そこで嘘を書いたら作家の卵達に本気で恨まれそうな気もする。
 まあ、実際にはそんな心配は不要であり、本作のあとがきでも『作中で描かれている作家業に関する事柄や電撃文庫に関する事柄は、これまでの自分の経験があちこちに活きています。』と書かれているので、「本作を読んで、自分も明日の時雨沢恵一を目指すぜ」という作家志望の若者も安心だ。ただ当然、本作を読んで時雨沢氏の小説作法を真似たところで、氏と同じ様な作品が書けるとは限らないけれどね。

 所謂『小説の書き方』についての本は世の中に山ほどあると思うし、その内容も実用書から本作の様な物語仕立てになっているものまで幅広い訳だけれど、文章を書く上での基礎的な約束事や応募の際の注意事項以外はもう『好きに書け』としか言い様が無いのではないかと思う。作法に則って書いたから素晴らしい作品が出来るかというとそうではないし、更にライトノベルの場合は「どんな書き方をしてどんな内容の物語になろうが結果として面白ければ勝ち」の様な所もある。当然ハウツー本の通りに書けば誰もがプロ作家になれるという訳でもない。だから可能性は低いのかもしれないけれど、もしかすると将来電撃からデビューする作家の中に、「本作を読んで小説の書き方を学びました」という人が出て来ないとも限らない訳だ。まあ相当なレアケースだとは思うけれど、もしもそんな事があったら時雨沢氏も本作を書いた甲斐があったというものだろう……いや、やっぱり無いかな、そんな特殊なケースは。

 

テーマ : 本の紹介
ジャンル : 小説・文学

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地方の片隅で今日も黙々生息中。

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