無様でも、生きて行くという事を・陸凡鳥『隣人は真夜中にピアノを弾く2』

 

 1巻の感想はこちらに。
 さて、ライトノベル業界というか、ライトノベル読み界隈ではしばしば「ライトノベル定議論」じみた議論が交わされる事がある。自分の様に三十路を過ぎた本読みからすれば、「その議論何回目なんだよ」「どうせ万人が納得する答えなんか出た例がないんだから適当な所で切り上げとけばいいのに」と思ってしまうが、それでもこの手の議論はループして何度も話題に上る。

 ある作品がライトノベルらしいとか、らしくないとか、そんな瑣末な問題は自分の様な雑食傾向の本読みにとってはどうでもいい事で、作品が面白ければそれでいい。むしろ自分は、ライトノベルの良さはその「何でもあり」な所だと常々思っている。ライトノベルという皮を被ってさえいれば、その中でSFをやろうがミステリをやろうがラブコメをやろうがファンタジーをやろうが、それが面白くて一定数売れて商売として成立すれば後は一向に構わないという縛りの緩さがライトノベルの良さなのではないか。だから本作の様に一見昨今のライトノベルらしくない表紙と内容を備えた作品が世に出る事は大歓迎だ。それでこそライトノベルの「何でもあり感」が際立つし、ライトノベルが取り込む作品の裾野が広がって行けば行く程全体が盛り上がるのではないかと思う。だから仮に、今ライトノベル業界で一番売れるジャンルがVRMMOものとか異世界転生ものだとしても(いや、今とっさに当てずっぽうで言っただけで本当にそうかは知らないけれど)ライトノベル作家が皆そのジャンルを量産する必要はない。売れ筋に乗っかる事やヒット作を参考にする事は商売上有効である、というのは確かだとしても、右を向いても左を向いてもそればかり、という状態になってしまえば流石に食傷気味になってくる。

 前置きが長くなったけれど、本シリーズの1巻が出版された時にまず指摘されたのが『表紙がライトノベルらしくない』という事で、しかも中身がハードボイルド小説風だった事もあり、結構話題になったと思う。ただ個人的にはその装丁や、ライトノベルでハードボイルド小説をやった事以前に、ライトノベルで「一度は夢破れた人間(或いは悪魔)のその後」を描いた所が気に入った。その「一見ライトノベルらしくないとされる部分に込められたライトノベルらしさ」がいかにもガガガ文庫作品らしいとさえ思うが、この2巻でもそれは引き続き描かれる事になる。

 ライトノベルに限らず、漫画やアニメ、ゲーム等、青少年に向けて発信される作品では『夢は叶えるべきだ』という前提がある様に思う。確かに夢は叶った方が良い。その為に努力する姿は絵になるし、読者の共感を得易い。一度は挫折したとしても、そこから再起してまた同じ夢に、或いは新たな夢に向かって前進する様な登場人物を描く事は若者にとっての励みにもなるのだろう。しかし、その一方で「夢破れた人間がその傷を抱え込んだまま生きて行く事」について描いてくれる作品というのは、実は少ない様に思う。

 もしも夢が叶わなかったとしたらむしろ死んでしまった方が良い、とまで思い詰める事が出来るのが若さで、その前のめりな生き方が人生にとってプラスになる事もある。何としても夢を叶えよう、成功しよう、と必死になれる事は良い事だ。けれど、自分も含めて大多数の人間がそうである様に、人は夢が叶わなかった後の人生とも向き合って行かなければならない。野球少年が皆イチローにはなれない様に、夢を叶える人間がいれば、その背後には大勢の夢半ばで挫折した人間がいる。

 中には「そんな昔の夢なんてもう忘れたよ」と割り切って、新たな目標や生き甲斐を見付けて生きて行く人もいるだろう。でも自分が共感するのはどちらかというと、自分にはもう夢を叶える事は出来ないだろうと思い、半ば諦めつつも、過去に抱いていた夢を捨てる事も忘れる事も出来ずに抱え込んで生きて行く人の方だ。未練がましいと言われても、女々しいと言われても、かつて大事にしていた夢の残滓を捨てる事が出来ない人間。口先では「もう望みなんて無い」と言いつつ、気持ちの奥底ではそこまで割り切れない人間。酷い言い方をすればそうやって「みっともなく」生きている人間の物語に自分は共感する。自分にもそういう所があるから。そして本作にもどこかそういう匂いが、手触りがある。

 ライトノベルという若者向けの小説の中に、時にはこうした作品があってもいい。自分の様なオッサンはともかくとして、若者がどういう感想を抱くか聞いてみたい気もする。

 

テーマ : 本の紹介
ジャンル : 小説・文学

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地方の片隅で今日も黙々生息中。

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