きっと曖昧なままでいい・入間人間『ふわふわさんがふる』

 

 入間人間氏の小説を何作か読んで思う事は、読む人を選ぶ作品が多いという事だ。そして入間作品が肌に合うという読者の中でもまた、個々の作品によって合う合わないが存在すると思う。一般的なライトノベルの作風から外れた作品が多い事や、登場人物の掛け合いも含めた独特の文体がそう感じさせるのだと思うけれど、本作『ふわふわさんがふる』もその例に漏れず、『入間的』とでも言う他ない独特の雰囲気を醸し出している。

 自分は入間作品が割と好きだ……と思う。うむ、何か歯切れが悪いな。

 なぜこんな歯切れの悪い言い方になるのかと言えば、入間作品を読んでいて、『面白い』とか『興味深い』とか『凄い』とか『好きだ』とか、そういうはっきりとした感想を持つ事が少ないからだ。少なくとも自分は。
 自分が入間作品を読んだ時にいつも感じるのは『何となく面白い』とか『どことなく興味深い』とか『何だかよく分からんが凄い』とか『そこはかとなく好きだ』とか、そういうはっきりしない感情だ。本作でもそれは同じで、それは多分、作品の方向性というか分類がはっきりしないまま読み始めて、読み終えてもその作品をどんなジャンルに分類したらいいのかがはっきりしないからだと思う。本著のあとがきの一行目には『もちろんこれもラブコメです。』なんて堂々と書いてあるけれど、その後に例の『嘘だけど。』って台詞付けなくていいんですか? と聞き返したくなる。いや自分『嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん』シリーズは一冊も読んでないけど。それとも入間氏のラブコメの基準が自分とずれているのか、もしくはラブコメと定義する範囲が自分よりももっと広いのか。

 『ふわふわさんがふる』は電撃文庫から出ている。だとすればライトノベルに分類される事になるけれど、ライトノベルというのは作品のジャンルというよりも売り方みたいなものだから、その中にファンタジーもあればラブコメもあればSFもある。でも、本作をそのどれかに当てはめようとするとどうもしっくり来ない。一般的なラブコメからすると恋愛要素もコメディの要素も薄い。多分一番近いのはSFなのだろうけれど、その割には読者に提示される世界観や設定に隙間が多くて、それこそ印象がふわふわしている。物語はそんなふわふわとした印象のまま始まって、ある意味唐突に終わる。そして、その結末から何を読み解くかは読者の側に任せられている。だから本作を紹介しようとしてあらすじを書こうと考えるととても困る。

 「ふわふわさん」とは空から降ってくる綿毛から生まれる人の形をした存在だ。生き物かどうかは今のところ分からない。分かっているのは、夕暮れ時に空から大量に降ってくる綿毛から生まれるという事。そして、必ず失われた者の姿を真似して存在するという事。ふわふわさんは、オリジナルとなった存在が失われた当時の外見と年代を完全に再現するという特徴を持っているけれど、記憶までは引き継がない。だから厳密には『よみがえり』とは違うのだけれど、それでも失われた者と同じ外見--唯一異なるのは綿毛の様に灰色の混じった白髪だけ--をしている事から無視は出来ない。主人公の元に、かつて交通事故で失った姉の姿をしたふわふわさんが現れる事で、この物語は始まる。

 ふわふわさんの描き方はとても可愛らしく、時に微笑ましい。作者が胸を張って『もちろんこれもラブコメです。』と言いたくなるのも納得できる。でも、これと同じ事が現実にこの世界で起こったなら、それは軽くホラーだと思う。死者の姿を借りてこの世界に降り立つ、生物かどうかもはっきりしない者。遺族は、外見だけは死者と同じでありながら、生前の、というかオリジナルと同じ記憶を持たないふわふわさんと出会う時に何を思うのだろう。偽物と言うにはあまりにも死者と瓜二つなふわふわさんと、どんな関係を結ぶ事になるのだろう。失われた過去をやり直そうとするのか、死者とは異なる存在として新たな関係を築いて行くのか。いずれにしてもその存在と向き合わなければならなくなった時、自分はどうするだろう。そんな事をふわふわとした頭で考える。そして、はっきりした答えを形にする前に投げ出す。そんな事、その時にならなければ分からないに決まっている。本作の主人公がそうである様に。

 そしてまた今回も、自分は入間作品を明確に分類する事を諦めて、ふわふわとした感想をこうして書いている。何となく面白くて、そこはかとなく好きだ、みたいなふわふわした感想を。でも、これ以上に厳密に作品を分析しようとは思わない。何となく「はっきりさせる」という行為は入間作品には似合わない様な気がしている。「何でもかんでも分析して、分類して、ラベルを貼り付けて、評価を固めなければ落ち着かない」という人に、多分入間作品は向かない。このいい加減な所が、自分は好きだ……と思う。歯切れが悪いけれどね。

 最後に蛇足。『31だから雪風』って、そのネタ理解するのに数分かかったんですけど。(苦笑)

 

テーマ : 本の紹介
ジャンル : 小説・文学

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Author:黒犬
映画と小説を主食に生きている。
地方の片隅で今日も黙々生息中。

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