眩し過ぎる光に、目を細めながら・上遠野浩平『しずるさんと気弱な物怪たち』

 

 謎、というやつがある。大なり小なり、この世界はには謎とされる出来事や物事があり、そして人間は大抵これらの謎を解き明かそうとする。事件捜査等、必要に迫られてそうする事もあれば、単なる好奇心で首を突っ込む事もあるが、何故か人は謎を謎のままにしておく事が苦手だ。一昔前、特に前世紀末までは超常現象やUFOの謎に迫ろうというテレビ特番が年に数回は放送されていたが、どこまで本気で検証する気があったのかは別として、そうした荒唐無稽な企画にまで制作費や人員を割く事が出来る程度には人気があったのだろう。そして今でも毎日何かしらの推理ドラマがテレビでは放送されている。

 これまでは謎とされてきた事が解き明かされ、謎ではなくなる時、そこには物事を理解し、分類・整理して未知を既知に変えるという安心感、或いは快楽がある様に思う。未知のもの、不明なものは潜在的な脅威であって、それらを理解する事で不安や恐怖を取り除きたいという欲求を人は持っているのかもしれない。しかしながらその一方で、人間は事実を嘘やごまかしで糊塗する事にも必死で取り組んでいたりする。それこそ謎を解き明かそうとするのと同じか、それ以上の労力を注ぎ込んで。

 事実には色がない。それがどんな事柄であれ、事実は事実だ。良いも悪いも無い。ただ、それを取り巻く人間にとって、公になってしまっては都合が悪い事実というものもまた存在する。自分にとって都合の悪い事実を見付けた時、人は必死にそれを隠そうとする。そうして嘘やごまかしが生み出される速度と、謎が解き明かされ、事実が明らかになる速度では、きっと前者の方が優っているのだろう。だから病室で静かに物思う少女と、彼女に寄り添う、ひまわりの様な顔をしたもう一人の少女がどんなに頑張ってみても、この世界から全ての謎が--嘘やごまかしが--消え去る事はないのかもしれない。それは常に生み出され続けるから。嘘やごまかしによって作られる影の中にしか安住の場所を得られない弱い人間もまた、この世界には存在するから。そして自分もきっと、その中の一人なのだろうと思う。

 嘘やごまかし。そういった影の中で暮らしている自分の様な人間が彼女達の様な存在を見る時、それはやはり眩し過ぎて、真っ直ぐ過ぎて、目の毒なのかもしれない。でもその光を手で遮る様にしながらも、やはり指の隙間から覗き見ようとしてしまうのは、きっと心のどこかでは皆その光を求めているからなのではないか。嘘やごまかしがない、真っ直ぐな光を。ヒカルモノを。

“「でも君には心の中に、これが大切なものですって他人に胸を張って言えるものがあるだろう?」”

“「みんながみんな、そういうものを持っている訳じゃないのさ。この世界は基本的には欠けているものばかりでできているんだから。大半のものは全部、中途半端で理不尽なのさ。君は特別だ」”

“「みんなは君のように豊かじゃない。一生懸命に生きていかなきゃならないのさ。ムキになって、意地を張り続けてね」”

 嘘やごまかしではなく、大切なものを大切だと言える事。大切な人を大切だと言える事。
 自分に欠けているものや、自分が求めるものを手に入れられなくて、その代用品を詰め込んで自分の中に空いた穴を無理矢理に塞ぐ様な、自分自身に対する嘘やごまかし。形だけは大人になって、そんな小狡いやり方を覚えた自分には、たったそれだけの事が酷く眩しくて、遠い。それでも日々は続くから、途中で降りる訳には行かないから、自分は、自分達は、またムキになって、意地を張り続けて、でも一生懸命に歩いて行かなければならないのだろう、きっと。その一生懸命さがどんなに歪んでいても、無自覚に誰かを傷付けてしまう様な質のものになってしまっていたとしても。何だかやりきれない話だが、そうした影を抱えているのは多かれ少なかれ皆同じだ。

 自分達の世界はその大半が中途半端で理不尽なのだろう。そして、その中で生きる自分達は豊かではないのかもしれない。ここには嘘やごまかしに立ち向かう二人の少女はいない。炎の魔女も、不気味な泡も現れる事はない。だから自分達はここで、みっともなく意地を張り続けながらでも生きて行かなければならない。誰の手も借りず、自分達だけで、一生懸命に。その姿は滑稽かもしれない。その努力は空回りし続けるだけなのかもしれない。自分自身に対する嘘やごまかしは最後まで付きまとうのかもしれない。それでも最後まで意地を張り続ける事が出来たなら……その時には今とは違う景色が見える様になるのだろうか。今はまだ、途中なのだとしても。

 (お前、自分の問題を『自分達の問題』にすり替えるクセ、いい加減何とかしろよ)
 (自分は独りじゃないと思いたい……ってのもごまかしだよな、確かに)

 BGM “Hands On Me” by Vanessa Carlton

 

テーマ : 本の紹介
ジャンル : 小説・文学

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Author:黒犬
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地方の片隅で今日も黙々生息中。

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