モンスターパニック映画の味わいをライトノベルで・らきるち『絶深海のソラリス』

 

“ためしに永遠なんて無いと言い切ろう
 そしたら希望や夢はいくつ死ぬだろう
 ソレが存在しない事の絶望と
 存在する事の残酷を想像してみて僕は少しまた
 めくるページの手を止める
 How will we have?...”

 ONE OK ROCK『Clock Strikes』より

 本作は各章の章題が全て楽曲名からの引用なので『Deeper Deeper』からのONE OK ROCK繋がりで『Clock Strikes』から入ってみたけれど特に意味は無いので流してもらって構わない。で、最初に一言、「うん、酷いね!」(褒め言葉)

 本の帯には『衝撃の深海クリーチャーパニックアクションノベル--絶望率100%』と書かれているけれど、もしも本作が気になっているというのなら、その下に小さな文字で書かれている一文にも目を通しておいた方が良いと思う。『We promised each other, but she never smiles again.』つまりはそういう物語だ。言い換えれば『この門をくぐる者は一切の望みを捨てよ』的な。一度本作を読み始めたら最後、その先にあるのは悲劇と絶望だ。それでもいい、いやむしろそれこそが望むところだ、というタイプの読者にはお勧めかもしれない。

 時は22世紀。百年前の『大海害』と呼ばれる災害によって引き起こされた海面上昇により、かつての東京も海中に没し、国家や世界情勢も大きく変化していた。しかし人類は『ソラリス』と呼ばれる「生きた鉱物」と、その適性者の力によって復興を遂げる。ソラリス適性者は『水使い』とも呼ばれる、いわば造られた超能力者であり、生身での深海活動が可能であるばかりか、攻撃や防御、人命救助や情報分析等に活用可能な『テリトリー』と呼ばれる拡張能力さえ駆使する事が出来る。
 主人公の山城ミナトは水使いを養成するアカデミーで教官として訓練生を指導するべく、母校へと帰還する。常にマイペースで天然気味な幼馴染の星野ナツカ、成績優秀な天才肌ながら何かと周囲と衝突し問題を起こすクロエ=ナイトレイ等、個性豊かな訓練生達に囲まれ、教官として充実した日々を送るミナトだったが、深海から生じた絶望が彼等を絡め取ろうと這い寄って来ている事に気付いてはいなかった。

 前半の明るい学園モノパートと、後半のモンスターパニック映画的なパートでの落差が凄まじいが、前半の学園モノにページ数を割いてしっかりとキャラクターを立てて、読者に登場人物に対する愛着を持たせ、感情移入もしっかりさせておいてから一気に深海の底まで落とすという構成は、プロレス技で言うとブレーンバスター的というか何というか。しかも垂直落下式で来るので「そろそろ落とされるな」とわかっていても受け身が取れずに脳天から落ちるしかないという。これを「あー、次はどの娘が犠牲になっちゃうのかな(ゲス顔)」みたいな心境で読めるとすれば結構なB級ホラー・パニック映画マニアと言えるのかもしれないけれど、自分はまだそこまでレベルが高くなかった模様。

 この作風、「ゾンビ映画が大好き」という作者らしいと言えばらしいのかもしれないけれど、自分が思い出したのはゾンビ映画とか、同じく深海モノの『アビス』ではなくて、研究施設から解き放たれた人造の殺人ザメが研究員を襲いまくる映画『ディープ・ブルー』だった。一人ずつ犠牲になる登場人物はこの手の映画のお約束だし。
 しかし『進撃の巨人』とかもそうだけれど、最近は登場人物があっさりと、そしてエグイ死に方をする作品が流行りなのだろうか。まあ遡れば『寄生獣』とかもあるので今に始まった事ではないのかもしれないけれど。

 次回作へ繋げられそうな伏線があったり、ソラリスや水使いについての設定に結構隙間があって後付け設定を割り込ませる余地がありそうだったり(設定の煮詰めが甘いのもB級映画のお約束なので真面目に突っ込んだら負け)する所から、もしかすると2巻の刊行が最初から視野に入っているのかな、とも思うけれど、後半の展開が余りにも容赦なかったので登場人物達をこの絶望のどん底、深海の谷底深くから再起させるのは大変かもしれない。もっとも、パニック映画の1作目で生き残った登場人物が2作目で再び惨劇に巻き込まれるというのもこの手の映画のお約束なので、作者はしれっとした顔でやってきそうな気もするけれど。

 そういう訳で、最近モンスターパニック映画に飢えているというマニアな方は本作を読むと幸せになれるかもしれない。黒い意味で。もしくは学園ラブコメにしか興味が無い様なライト層の読者に後半の内容を伏せたまま読ませるとか。ある意味テロ行為だけど。

 

テーマ : 本の紹介
ジャンル : 小説・文学

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Author:黒犬
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地方の片隅で今日も黙々生息中。

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