河野裕『サクラダリセット』

 

 本を読むのが好きだ。
 自分は色々な本を読むので、もう随分前から本のジャンル分けとかがどうでもよくなっていて、時代小説、純文学、評論、対談、エッセイ、それこそライトノベルと言われるものまでかなり雑食気味に手を付けている。活字だけではなく当然漫画も読む。

 本読みとして一番嬉しいのは、やっぱり自分が『面白い本だ』と思えるものに出会えた時だけれど、欲を言えば、それがまだ一度も手に取った事の無かった作家さんのものだったり、新人さんのものだったりすると、個人的お得感というか、嬉しさが4割増しくらいになる。我ながら幸せが安い男だ。

 というわけで河野裕『サクラダリセット』を。
 あらすじ等はここでつらつら書くよりも、もう実際に読んでもらった方がいいと思う。それくらい強くお薦めしたい。個人的には文章のそこかしこで感じられる透明感が凄く気に入ってしまい、正直参ったとしか言えない。水泳の北島康介選手じゃないけど、『もうなんも言えねぇ』状態。

 でもそればかりだと何の紹介にもならないのでちょっと無理して書いてみる。
 平たく言うなら、特殊な能力を持った高校生達の群像劇なのだが、こうした設定でありがちな所謂『バトル物』とは若干軸をずらして、彼等一人一人が抱える背景に焦点を合わせている。

 こうした作品に登場する特殊な能力というと、『ジョジョの奇妙な冒険』的な、スタンド能力の様なものが大半なのだが、本作もその例に漏れない。ただ描き方の違いとして、彼等は皆自分の持っている能力をどこかもてあましている様に映る。
 凡人思考な自分はつい『そんな特殊な力があったら何かと便利なんじゃないか』と思う。ドラえもんのひみつ道具を欲しがる思考と何ら変わらないし、単純に『他人と違う特殊性って素敵かも』というあっけらかんとした思考なのだけれど。
 ただ、その5秒後には『でも能力も結局は物事に対処する手段に過ぎないのであって、あればあったでまた別の悩みが生まれるだけなんだろうな』という結論に辿り着く。そして多分それは正しい。

 上遠野浩平という作家の作品が好きでよく読むのだけれど、彼の作品に登場する特殊能力を持った人物達も、皆実は凡人に過ぎない自分と大差ない所で悩んでいる。生きて行く上での困難の前では、どれだけ身体能力が超人じみていようが反則的な能力を持っていようが、それらが何の助けにもならないという局面が必ず来る。そうでなければ、凡人である自分が彼等に共感する事も無い。何事も完璧にこなす超人には自分を投影できる余地が無い。

 作中で特殊な力を持った登場人物達が思い悩む姿を見る時、凡人である読者=自分は、果たして現実の世界でどうやって生きて行くのだろうという事を考えずにはおれない。結局は自分に出来る範囲の事を一つ一つやって行くしかないのだが、ではそれが最善なのかと問われれば、他にもっと上手いやり方があったのではないかとも思う。そうしてその時々の選択を振り返ったり、反省したり、後悔したりしながら、それでも前進するしかないという所が人間なんだなと思う。

 ただそんな道程の途中で、こういう本に出会う事も出来る。辛い事や困難ばかりかと言えば、そればかりでもないと思える時もある。それはそれで、悪くない現実なんじゃないかと思う。


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Author:黒犬
映画と小説を主食に生きている。
地方の片隅で今日も黙々生息中。

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