高校生理事長は苦労人・朱門優『修理屋さん家の破壊神』

 

 えー、最近ゲームにかまけていて全くと言っていい程読書をしていなかったので、リハビリがてらさくっと読める単巻ライトノベルをつまんでみた。というのも、2012年下期から毎回参加させて頂いている『好きなライトノベルを投票しよう!!』という企画があり、今回も2014年上期の10作品を選ぼうとしたのだけれど、振り返ってみれば今期は本当に読んでいるライトノベル自体が少なくて、これしか読んでなかったのかと自分で驚く結果になったからだ。
 投票コードが必要になる企画の為、毎回主な投票対象一覧が公開されているのだけれど、これを見ると各社様々なレーベルで物凄い数のライトノベルを出版しているのだという事が分かる。またライトノベルと一般文芸との境界線上にある作品や、ライトノベル作家の越境作品等、このリストに載っていない作品もあるので、その作品数の多さにはちょっと目眩がする程。

 アルファブロガーとか言われる人々と同じ様に「アルファラノベ読み」と言われる人が存在するのかどうか知らないが、とにかくライトノベルであれば手当たり次第に読んでみて、そこから名作を発掘して行くのだという使命感でもない限りはとても全ての作品を追い切れない。自分はこれでもライトノベルはそれなりに読んでいる方だと思っていたのだけれど、振り返ってみれば今期は一冊も買っていないレーベルも多数あり、これではライトノベル読みの看板を降ろさないとな、と思わなくもない。まあそもそも、そんな看板掲げてたのかという話もあるけれど。自分はこれまで通り雑食で行こう、うん。

 さて、そんなこんなで『修理屋さん家の破壊神』なのだけれど、これは意外と説明が難しい作品だと思う。何せ最後まで読んでも「これは結局どういう話だったのか」という事がはっきりしない。

 主人公の類(ルイ)は高校二年生だが、その高校は他界した祖母が理事長を務めていた。祖母の遺言によって後任の理事長に指名された類は、現役高校生と私立高校の理事長という二足のわらじを履く事になったのだけれど、その高校に「住み着いている女の子がいる」という報告が入った事で彼の平穏な日常は今度こそ完全に崩壊する事になる。
 祇良堂ちず。記憶喪失の家出娘にして、類の祖母から「行くところが無いのなら泊まっていくくらい別に構わない」と学校に住み着く許可を得たという謎の同級生。それだけならばまだ精々「電波の受信状況が良好な人」レベルで済んだだろうが、ここで更に問題が重なる。それも重大な問題が。

 祇良堂ちずがうっかりモノを壊してしまうと、なぜか世界の法則そのものも同時に壊れてしまう。彼女は無自覚な『破壊神』だったのだ。例えば彼女が不用意に筆記用具を壊してしまったとする。そうすると『書く』という行為にまつわる世界の法則が壊れてしまい、何かとんでもない事が起こるかもしれない。彼女自身、自分がしでかした事で世界がどの様に壊れ、どう変わってしまうのかは分からないのだ。彼女は無自覚に世界を壊し、常識を破壊して行く。壊された世界に住む他の人々は、変わってしまった世界の常識や基準を当然のものとして疑問に思う事もない。ただ一人、世界が彼女によって壊されてしまった事を自覚出来る、類を除いては。
 物を大事にする祖母の影響から、素人とは思えない程のDIY精神を発揮してありとあらゆるものを直す「修理屋」としての技術を身に付けていた類は、祇良堂が壊してしまったものを直して回る事になる。彼女が壊してしまったものを直す事が、壊れた世界を元通りにする唯一の方法だからだ。

……と、あらすじとしては概ねこんな話だ。そこに類の幼馴染で同級生の「ユー」やら、彼女の姉で中二病をこじらせた引きこもりの「アニャト先輩」やらアクの強い登場人物が加わって事件を解決して行く事になるのだけれど、結局「そもそも祇良堂ちずとは何者なのか」とか「なぜ彼女は破壊神としての力を持ってしまったのか」とか「なぜ類だけが壊れた世界を修復できるのか」とか、そういった基本的な謎の扱いは結構ぞんざいだったりする。こうして読み終えても、その印象は変わらない。

 多分本作は「結構遠回しな表現のラブコメ」なのだろうなと思う。しかも祇良堂が壊したものを直せるのが類だけ、という時点で結構仕組まれている感がある。類は壊れた世界を修復する為に祇良堂を放置出来ないし、祇良堂もまた最終的には類を頼るしか無い。作品をラブコメとして成立させる事さえ可能なら、他の細かい設定のつじつま合わせとか、謎解き等は本作の中ではどうでもいい部分なのだろう。

 個人的には、ラブコメ成分よりもむしろ類の苦労人気質の方に同情した。会社でも学校でもこういう苦労を買って出なければならない役回りの人がいるものだ。自分も結構やったし。会社でパソコンが壊れたと言われればバラしてハードディスク交換したり、データ復旧したり、回らなくなったケースファン交換したりしたし、プリンタが壊れたと言われればこれもバラして可能な限り修理した。毎回「ああもうしょうがねーなー」っていう奴で、修理が終わるとそれなりに仕事した感はあるのだけれど、別にそれで評価されるという事もなく、まあ便利屋さん的な役回りで。だから思うのだけれど、身の回りに類と同じ様な「修理屋さん気質」の人がいたら、本人が拒否しないからって何でも頼むのは自重してやって下さい。便利に使えるのでつい色々頼んでしまうのは分かるけれど、「やって当然」みたいに扱われるとちょっと悲しくなるものです。ええ。

 

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ジャンル : 小説・文学

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地方の片隅で今日も黙々生息中。

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