再読というよりも、再会として・籘真千歳『θ 11番ホームの妖精  鏡仕掛けの乙女たち』

 

  『スワロウテイル』シリーズで知られる籘真千歳氏のデビュー作、『θ 11番ホームの妖精』が、電撃文庫刊行時には未収録となったエピソードを加えてハヤカワ文庫JAから再刊行された。本作を完全版として、今後もシリーズ展開が予定されているとの事で、ファンとしてこれはとても嬉しい。

 『θ 11番ホームの妖精』の概要については以前電撃文庫版の感想を書いたのでそちらを参照頂くとして、今回はライトノベルについて思う事を少し書いてみる。

 誤解を恐れずに言えば、ライトノベルは消費される物語だと思う。そして、その消費速度は速い。新レーベルが増える一方、様々な理由で消えて行くレーベルもあって、レーベルごと「消えて」しまった作品や、レーベル自体は存続していても出版から年月が経った作品等は、書店の棚で見掛ける事も少なくなって行く。そもそもライトノベルの読者数からして、出版される作品が供給過剰なのではないかと思わなくもないが、自分は統計データ等の数字を見て言っている訳ではないのでこれは間違っているかもしれない。
 いずれにせよ、新レーベルや新作小説がどんどん生み出される一方、書店の棚は有限であり、通信販売や電子書籍化によってその有限な棚に収まり切らなくなった作品をフォローして行くにせよ限界はある。

 そんな折、出版から随分経ったライトノベルの中から、自分の好きな作品を誰かに紹介しようとすると、そもそも手に入り難いという問題が発生する事がままある。自分が電子書籍に期待しているのはこうした作品のフォローなのだけれど、残念ながらすべての作品が電子書籍化されるかというとさにあらず、というのが実情の様だ。本作も例外ではない。

 他にも文庫1冊にまとまるだけの分量がない短編が書籍化されず宙に浮いていたりする事は往々にしてある事で、お気に入りの作家について検索したりすると単行本未収録の短編、中編が山程出て来て残念に思う事もある。以前、上遠野浩平氏の『ドラゴンフライの空』『ギニョールアイの城』の感想を書いたけれど、あれもそうした書籍化されていない短編に属していた作品で、電子書籍だから刊行出来たという側面がある様に思う。

 こうした、様々な事情で「書店の棚に並べる事が出来ない作品」について、電子書籍には相当期待している。歌手のCDアルバムをデータで1曲から買えるご時世なのだから、作家の単行本未収録作品もどんどん配信してしまえば良い気もするのだが、色々と難しい部分もあるのだろう。ただ、書籍が手に入り難い状態になってしまう事で、読者と作品との距離が離れてしまう事は一読者として残念に思う。

 優れた作品は古びない。それは何も古典の名作に限った事ではないと思う。何年か経った後に読み返すとまた新たな発見があったり、当時の自分では得られなかった気付きを与えてくれる様な作品。ライトノベルにも確実にそうした作品はある。そして本作もまた、そうした作品に属していると自分は思う。だからこそ、今回の再刊行の様に作品が再び新刊として書店に並ぶ機会を得て、更にシリーズ化の構想に繋がった事を喜びたい。読者として嬉しいのはもちろんだが、これで心置き無く周囲に勧められるという事も含めて。

 月日が経っても作品は変わらない。それを読む自分の方は全く変わらずにいる訳には行かないかもしれないが、それでもふと立ち止まった時に、かつて読んだ作品がまた自分を迎え入れてくれる事もある。そんなかつての読者は懐かしさと共に、新たな読者は出会いを求めて『東京駅11番ホーム』を訪れて欲しい。T・Bは、きっとそんな人達全てをいつもの様に待っているだろうと思うから。

 

テーマ : 本の紹介
ジャンル : 小説・文学

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地方の片隅で今日も黙々生息中。

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