終わってしまった世界の中で・枯野瑛『終末なにしてますか? 忙しいですか? 救ってもらっていいですか?』

 

 ここでも何度か書いた通り、自分は終末モノが好きだ。そして読書時間が減って来るとライトノベルに手が伸びる傾向がある。今回本作を選んだのはそういう理由もあるのだけれど、もうひとつの理由として『勇者が救えなかった世界』という設定に興味を惹かれたというものがある。

 剣と魔法の世界では、世界の脅威に対していわゆる『勇者』が立ち上がる事が多い。悪い魔法使いでも魔王でも邪神でも、敵は何でも構わないが、選ばれた勇者とその仲間達が世界を救うべく立ち上がり、敵を倒すという物語は王道だ。大抵の場合、犠牲を払いながらも勇者一行は敵を退ける。しかし本作では勇者が世界を救う事は叶わず、旧世界は<十七種の獣>と呼ばれる怪物に蹂躙され、滅びたとされる。地上世界を失った人々は、<獣>の脅威が及ばない空高くに位置する浮遊島に逃げ延びた。その百を超える浮遊島の集合体『浮遊大陸群』が、今残された世界の全てだ。そして、その最後の生き残りを護る役目を背負うのは、かつて勇者達が携えていた『聖剣』を扱う為に生み出された『妖精兵』と呼ばれる少女達だった。既に製造技術が失われた『聖剣』は重要な遺物であり、回収して再利用されるが、それを使う妖精兵は消耗品の如き扱いであり、世界を救う為ならばその生命を戦いの中で燃やし尽くす事すら求められる。妖精兵とは言ってみれば『聖剣』という兵器に注ぎ込まれる燃料か、使い捨ての爆薬の様なものであり、軍が所有する兵器だ。それ以上でも、以下でもない。

 本作はそんな妖精兵の少女達と、かつて世界を救えなかった男が出会う所から始まる。男の後悔と、果たせなかった約束。少女達の諦観。<獣>の脅威と、緩やかに滅びへと向かう世界。それらを描く事が本作の骨子と言える。

 自分の好みからすると、もっと殺伐とした話でも良かったとは思う。地上世界が滅びたとはいえ、浮遊島での生活は日常と呼んで差し支えないレベルのものだし、妖精兵の戦闘についても一般には伏せられているから、世界がどれだけ荒廃しているのか見え難い分、『終末感』がわかない部分があるのだ。妖精兵達の戦闘は物語の中でも具体的に描かれない。出撃して行った者が帰らなかった過去や、帰還した者の疲弊した様子等の間接的な表現に留まっている。その甘さはライトノベル的で読み易いのだけれど、題名に付ける位なのだから、もっと思い切り『終末』しても良い気はする。もっとも、2巻以降に続く予定もあるとの事で、終末感が滲み出てくるのはこれから、という事なのかもしれないが。

 妖精兵の少女達に感情移入して読むか、それともいつか彼女達を見送る事になるであろう男に感情移入して読むかによっても印象が変わる作品だろうとは思うのだけれど、この1巻で作者が用意した視点はどちらかというと男の方に寄っているのではないかと思った。自分が成人男性だから余計にそういう読み方になっている部分もあるとは思うのだけれど、かつて挫折を味わって、しかもその失敗がもう絶対に取り返しが付かないもので、自分の命程度で償い切れる種類のものではないと知った時、男は何を思ったのだろう。そして今では妖精兵と呼ばれる少女達が自分の代わりに戦っているにもかかわらず、自分自身は戦う力を失っているのだとしたら?作品全体の甘さの中から、そうした苦味成分を探して読んでしまうあたりに読者である自分自身の加齢を感じなくもない。むしろ若い人が本作を読んだ時の感想を聞いてみたい気もする、そんな作品だった。

 

テーマ : 本の紹介
ジャンル : 小説・文学

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地方の片隅で今日も黙々生息中。

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