抉る様な鋭さを持って・浅井ラボ『されど罪人は竜と踊る 15 瑠璃色の放物線』

 

 何だか風邪をこじらせたらしく、咳が止まらずのたうち回っております。まあ一番酷い時期は越えたっぽいけれど。まあ、それはさておき……うん、これは酷い。(褒め言葉)

 相変わらずエグイストーリー展開に定評がある浅井ラボ氏の最新作。2ヶ月連続刊行なので2月中には16巻が出る訳だけれど、今回の長編も文字通り『痛い』描写が炸裂。恐らくライトノベル業界でも拷問だの惨殺だのといったゴア描写を一番多く書いている作家なのではなかろうかと勝手に思っているのだけれど、本作でもその実力は遺憾なく発揮されている。

 単純に血みどろのシーンを書くだけならば誰でも出来る様に思えるが、浅井氏の場合はそれがストーリー展開と密接に関係しており、なおかつ犠牲者に一度感情移入させておいてから落としに来るので落差が酷い。裏表紙に書かれたあらすじの中に『革命によって倒れたハオル王家の生き残り、盲目のアラヤ王女』という一文を見付けた時から「嫌な予感しかしない」と思っていたが、読み進めてみれば案の定である。もう浅井作品で登場人物(特に女性)が魅力的に描かれ始めると、この子がいつ酷い目に遭わされるのだろうと条件反射的に考える癖が付いてしまっているのだけれど、毎度作者がその予想を裏切らないのでこちらも耐性が付いて来た気がする。まあそれでも酷いけれど。

 ただ自分は、浅井作品のキモはそうした表面的な痛みの描写ではなくて、心理的な痛みに抉り込んでくる鋭さにあると思っている。

 昨今報道を賑わせているイスラム国の台頭。またそれに参加しようと各国から若者が流入している事。更には日本でも物議を醸しているヘイトスピーチ等に代表される極端なナショナリズムと、それに傾倒して行く者達がいる現状。本作はそうした実際の社会問題を、竜が闊歩し、咒式が飛び交うライトノベルの世界観に持ち込んで描き直す事で風刺する。
 職もなく、生きる事に希望や意味を見い出せずにいた者が、革命の混乱に乗じてより弱い者を虐げる。そこに罪悪感は無い。自分が悪いとは思わず、むしろ正しい事をしていると思っている。当然の権利を行使しているだけだと。その無邪気さが、傍から見ていてどれだけ醜悪であるかという事を、渦中にいる者達は気付かない。

 あれは数年前だっただろうか。ニートという言葉が定着し、社会問題化して行った頃、ニートの中で「戦争になれば良い」と口にした者がいた。今の社会は既得権益層に牛耳られていて、自分達はどう頑張っても報われないし、そもそも社畜の様な生き方はしたくない。もう一度戦争が起きて、現行の体制が崩れれば、その中で自分達は浮かび上がれるかもしれない。また仮に戦地に行く事になったとしても、戦死したとしても、自分達は国の為に戦ったとして敬われる存在になれるのだ。そういう趣旨の発言だったと記憶している。

 後ろ向きで、考えが浅い。そう切り捨ててしまえばそれまでだが、昨今の社会問題を生み出す土壌として、こうした考えを持つ者が一定数いるのだろうとは思う。将来に希望が持てない。生きる事に意味を見い出せない。仕事もなく、友人もおらず、誰からも必要とされていない。そんな事を自覚した上で、自分自身の努力や行動で現状を打破する事を諦め、戦争という外圧で停滞した日々が壊される事を期待している。もしそれが現実のものとなった時に、どんな悲惨な事態が引き起こされるか想像する事もなく。

 そんな者達には、年長者に正面から説教されるよりも本作の様な作品の方がより『痛い』だろうなと思う。「お前らの考えてる事って、結局こういう事だろ」という鋭さを持った作品が、ライトノベルという読者を傷付けない、読者の欲望を肯定する事を是とする作品が多いであろうジャンルの中に紛れ込んでいる事。戦争待望論を口にしてしまう様な者は、現実に大怪我をする前に、本作をうっかり手に取ってその『痛み』を感じてみれば良いと思う。

 というわけで、これからも浅井氏にはどんどん『読者にとって痛い』作品を書いてもらいたいと思う次第。次も期待しております。

  

テーマ : 本の紹介
ジャンル : 小説・文学

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Author:黒犬
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地方の片隅で今日も黙々生息中。

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