変わる自分を楽しむ事・時雨沢恵一『ガンゲイル・オンライン 2 ―セカンド・スクワッド・ジャム (上)―』 入間人間『神のゴミ箱』

  

 えー、時雨沢作品の方は題名が長いので一部省略。
 という訳で、しばらくまともにライトノベルの感想を書いていなかった事もあり、リハビリを兼ねて2作品同時に感想を。まあ実際、個別に感想を書くのが面倒もとい、この2作品を同時に語るのが結構面白いかなと思って。まあそんな変な事を考えるのは自分くらいかもしれないけれど。

 時雨沢作品『ソードアート(以下略)』の方は1巻の感想でも書いた通り、長身コンプレックスを持つ主人公、小比類巻香蓮が、VRMMO『ガンゲイル・オンライン(GGO)』の中でちびアバターのレンとして銃を撃ちまくって戦う物語。レンの愛銃、FN-P90の売り上げにも貢献しそうな勢いなので、東京マルイは感謝状代わりにコラボモデルとかどうでしょう。まあピンク色のP90が売れるかどうかはさておき「ボックスアートは黒星紅白氏の描き下ろし。同封冊子には時雨沢恵一氏の書き下ろし短編小説も付けるよ!」とか本気で企画すれば一部地域でそれなりに売れる……かなぁ。
 個人的に、FN-P90みたいなヘンテコな外見(失礼)の銃は割と好きで、サバイバルゲームをする予定も無いのに『KRISS Vector』のトイガンとか持ってますが。多分実射性能も取り回しの良さも装弾数もP90には敵わないであろう、「45ACPをフルオートで撃てる」という事だけが売りと言っても過言ではないサブマシンガンだけど。ちなみに『ピーちゃん』みたいな愛称は付けていません。

 さて、1巻での戦いを経て、これまで自分が抱いていたコンプレックスにもひとつの区切りを付け、新しい友人も得た香蓮=レンは、この2巻でもまた大暴れする事になる訳だけれど、プレイヤーである生身の人間の香蓮が、ちびアバターのレンとGGOという別世界を手にした事で少しずつ前向きに変わって行く過程が良いと思う。何より女の子と銃の取り合わせは鉄板かと。それからガンマニア、ミリタリーマニアを自認する諸氏はそっち方面から楽しむのも当然アリだね。

 そして入間作品の『神のゴミ箱』。こちらは何というか、相変わらず『入間節』としか言い様がない文体とストーリー展開で、あらすじを語るだけでは何の事やらさっぱり分からないという感想書き泣かせな作品に仕上がっている。

 主人公の神喜助(じん きすけ)はとあるアパートに住んでいる平凡な大学生だが、彼にはひとつ秘密があった。部屋の片隅に置かれた、油性マジックで『神』と書かれているゴミ箱。そこにはなぜか、同じアパートの住人がそれぞれのゴミ箱に捨てたらしきゴミが転送されて来るのだ。「勝手に中身が増えるゴミ箱」というのは相当シュールな絵面かつ迷惑なアイテムだ。他人のゴミまでせっせとゴミ出しする羽目になった神は、はからずも同じアパートの住人達のプライバシーを覗き見る事になってしまう。そこから始まる物語は、やはりヘンテコかつ、少しだけ優しい。
 「自分の所有物に名前を書くのが癖だった」という彼女と別れた神の部屋に残されたのは、自分の名字が書かれたゴミ箱だけだった。だからこれは『神(かみ)のゴミ箱』ではなく『神(じん)のゴミ箱』というのが正しい訳だが、神の一文字を書かれたせいか、不思議な力を授かってしまったらしい『神のゴミ箱』は、停滞していた神の生活に少しずつ変化をもたらして行く。

 この時雨沢作品と入間作品を読み合わせてみると、どちらも主人公が少しずつ変わって行く過程が描かれていて好感が持てる内容だと思う。エンタメ作品として女の子が異世界で実銃を撃ちまくる作品と、冴えない大学生の男がだらっとアパート暮らしをする日常を追いかける作品との間に共通点を探す事は難しいのだろうけれど、両者は『自分が変わろうとする事』と『他者との関わり』を肯定的に描いているという点で共通している様に思うのだ。

 『世の中に不満があるなら自分を変えろ。それが嫌なら耳と目を閉じ、口を噤んで孤独に暮らせ。それも嫌なら……』と言ったのはとある少佐だけれど、今は世の中に対する不満を、そのまま社会に投げ返そうとする者が増えた気がする。大きい問題ではテロもそうだし、ヘイトスピーチに代表される極端な言説が出て来る事もそうだ。無差別に他人を傷付けようとする通り魔事件等はその最たるものだと思う。自分にはそれが、今の自分と、自分を取り巻く環境に対する不平不満を、自らは一切変わらずに、社会を変える事で解決しようとしている様に映る。また自分より弱い者を探して叩く事で溜飲を下げようとする行為は、現実でもネット上でもそこかしこで見られる。

 今の自分に対する不満なんて、世の大多数の人が抱いている感情だと思う。多かれ少なかれ。しかしその時に、自分の内側に原因を求めるのか、それとも外側である世の中に原因を求めるのかで、問題は大きく変わって来る。「自分は不当に低い評価をされている」とか「こんな世界はクソだ」と思う時、それは本当に自分の外側に原因があるのだろうか。

 確かに自分達が暮らしている世界は完璧ではない。でも、今自分が立っている場所から見える光景が世界の全てではない様に、自分から動き出して、違った場所から世界を見渡せば、そこからはまた違った景色が見える筈だと思う。自分だけの力で自らを変えようとする事は難しいけれど、動き出す為のきっかけは何でもいい。特に他者との出会いは、自分と、それを取り巻く世界を変える為の有効な手段だと思う。それこそ今回取り上げた両作の様に、オンラインゲームでも良いし、今まで興味の無かったお隣さんに興味を抱く事でも良い。自分から新しい一歩を、または一歩を踏み出す為の半歩でもいいから、動いてみる。そうする事で、何か得るものがあるかもしれない。自分や、自分を取り巻く世の中を、もう少しだけ好きになる事が出来るかもしれない。もちろん変化は良いものばかりとは限らないけれど、停滞する日々の中で鬱屈としている事と、良いものも悪いものも含めて変化を受け入れる事と、どちらを選ぶのかは自分次第だ。

 もうすぐやって来る春は、新しい何かを始めたくなる季節でもある。実際に新生活を始める方もいるだろう。自分もまた新しい何かや、誰かとの出会いを求めて動き出してみようか。そんな事を考えさせてくれる両作品だと思う。

  

テーマ : 本の紹介
ジャンル : 小説・文学

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地方の片隅で今日も黙々生息中。

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