酔狂な読者達へ・押井守『世界の半分を怒らせる』

 

 唐突だが、押井守という映画監督が好きである。どの程度好きかといえば、このブログのタイトルである『凡人総研』の『凡人』は、氏の著作である『凡人として生きるということ』から拝借したものだ。また、その昔都内在住だった頃、友人と連れ立って、確か映画『人狼』の公開記念という事で開催された『押井守オールナイト』という悪夢の如き上映会に赴き、『紅い眼鏡』『ケルベロス 地獄の番犬』『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』の三本立てを睡魔と格闘しながら観た事もある。何せ当の押井監督本人が、開演前のトークイベントで「寝ない様に頑張って」みたいなコメントをしていた覚えがあるのだが、当時の自分もまた『生押井』見たさにそんなイベントに足を運ぶ様な酔狂な人間だったらしい。
 ちなみに『人狼』といえば当時あの『ケルベロスの紋章』が欲しかった覚えがある。前売券か何かに付いていた記憶があるのだけれど、結局手に入れる事が出来ないまま、今に至る。

 さて、そんなしょうもない過去を持つ自分ではあるけれど、押井氏のものの考え方や思想、信条に全面的に賛同するかというと、当然ながらそんな事はなく、「あー、また監督はこんな事言って」みたいな生暖かい視線を送ったりする事もある。というか最近はそっちの方が多い気がするのだが、本著『世界の半分を怒らせる』の題名の通り、意見を述べればそれに賛同する人間だけではなく、怒り狂う人間もいれば呆れ返る人間もいる。むしろ怒り狂うのが「世界の半分」程度なら御の字である。

 本著は「読みたい人だけが読めば良い」という押井氏の有料メールマガジンで配信された内容を書籍化したものだ。本来、月2回配信されるメルマガを購読する為には540円かかるらしいのだが、自分の酔狂もそこまでは続かない。若かりし頃の自分であれば別だったかもしれないが、今の自分にはこの本を更に電子書籍のポイント還元セールで買うのが関の山である。ポイント還元分を見込んで、実質600円で買ったと思えば中身がどんな物であれ笑って許せるというものだ。押井監督の言い草ではないが、立ち食い蕎麦屋でカケ一杯手繰るのにも250円ではおぼつかないご時世である。お金は大事にしなければならない。

 とまあ、内容について触れる前に散々な事を書いてしまったが、要するに本著は押井氏が有料メルマガの読者向けに時事問題等についての持論を展開する「付いて来たい奴だけ付いて来れば良い」というものになっている。例えばオスプレイの導入問題とか、韓国フェリー転覆事故とか。中にはAKB48握手会襲撃事件なんていうネタもある。元々が内輪向けの有料メルマガであり、『世界の半分を怒らせる』というタイトルの通り、あまり公に垂れ流すには適切ではないのでは、と思う様な内容も中には含まれているのだが、そんな事は押井氏も百も承知であり、本著の冒頭でこんな事を書いている。

 “メルマガという形式で言いたいことを言い、書きたいことを書いてみようと考えたのです。読みたい人だけが読むのですから、文句を言われるスジ合いはありません。何を隠そう、「世界の半分を怒らせる(かも)」というタイトルは、そういう意味でつけたのです。怒っても不愉快になっても、とりあえず読んでみたい、という酔狂な読者限定です。お判りいただけたでしょうか。”

 まあ自分は間違いなく「酔狂な読者」の側なので問題はないと思うが、これが既に3年続いているというのもある意味凄い。昔の自分に限らず、結構いるもんだね、酔狂な人。

 メルマガを一冊にまとめるという構成上、本著に収録された中でも2012年頃の内容は流石に旬を過ぎており、「こんな事もあったよね」的な懐かしさが漂うのは否めない。これが書き下ろしで「2015年現在の世相を押井氏が斬る」的な企画であればまた話が違ってくる気もするが、それはそれである。個人的にはこういった活動に時間を費やすのなら、押井監督には映画(できればアニメ映画)を撮っていてもらうか、さもなければ『PAX JAPONICA』の続きでも書いてもらいたいと切に願っているのだが、『ガルム戦記』よろしく忘れた頃に実現するかもしれないので、今は生暖かく見守っておこうと思う。

 最後に蛇足。本著の表紙イラスト、京都・六波羅蜜寺の『木造空也上人立像』が元ネタだと思うのだけれど、妙にツボに入りました。

 

テーマ : **本の紹介**
ジャンル : 本・雑誌

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地方の片隅で今日も黙々生息中。

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