遊び場を創る力と、その中で遊ぶ力・成田良悟『Fate/strange Fake 2』 時雨沢恵一『ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンライン 3』

  

 思えば6月はライトノベルの感想を書いていなかったなと思ってまとめ書きしてみる。というのもこの2冊を読んでの感想は、結構重なる部分があるからだ。

まず分かり易い共通点としてどちらも原作が存在し、プロ作家が手掛ける二次創作的な作品になっている。成田良悟氏と時雨沢恵一氏といえば、ライトノベル業界では既に多数の読者を抱える人気作家だ。その両氏が、自前の作品ではなく、敢えてコラボレーション作品を手掛ける事については、様々な意見があるかもしれない。ただ共通して言えるのは、両氏がとても楽しんで作品を書いているという事、言い換えれば原作の世界で存分に『遊んで』いるという事だ。

 二次創作をやっている同人作家や投稿者、原作ファン等は大勢いる。人気作ともなればその二次創作を書きたい、或いは描きたいと思う人間は数多い。そうした人々は同人誌を作ったり、自作をネット上にアップしたり、投稿サイトで連載したりする。玉石混淆と言われるが、皆原作に愛着を持ち、それぞれ楽しんでやっている事に間違いはない。しかし、自ら作品世界を創造する事が出来るプロ作家の力で二次創作をする場合、原作の側に強度や広さが無いと、二次創作側の力によって原作が改変されてしまうという事も起こり得る。

 例えは悪いが、原作を動物園の『檻』、二次創作を行う作者をその中の『動物』に見立ててみる。小さい檻でも小動物を飼育する事は出来るだろう。体は小さいし、檻を破る様な力もない。ただ、プロ作家は虎やライオン、或いは象といった猛獣だ。体は大きく、力も強い。窮屈な檻には入れられないし、強度が無い檻の中で飼おうとすれば、容易く檻を破って外に出てしまうだろう。猛獣を遊ばせる為には広々とした空間と強度のある檻が必要になるし、何より猛獣の側がその中で遊びたくなる様な原作でなければならない。

 そう考えた時、奈須きのこ氏が用意した『Fate』の世界観と、川原礫氏が構築した『ソードアート・オンライン(以下SAO)』や『ガンゲイル・オンライン(以下GGO)』の世界観は、猛獣が思う存分走り回ってもまだ余るサファリパーク並みの広々空間と、猛獣が多少噛み付いたり体当たりを仕掛けたりした程度では破れない檻、或いは高い塀をという強度を持った、絶好の遊び場である事が分かる。

 空間を広く取っているのか、檻が強固なものであるのか。原作によってその匙加減は異なる。奈須氏の『Fate』は「あの会社はもう何年このネタ1本で飯を食っているのか」と思う事もある程だが、考え方を変えてみれば、プロからアマチュアまで、数多の人間が『ぼくのかんがえたさいきょうのサーヴァント』とか好き勝手やってもまだ余る広々空間がそれを可能にしていると言える。何せ古今東西の神々や英雄を全て英霊として同じ舞台で戦わせる事が可能というお祭り設定であり、聖杯戦争の基本ルールという檻を壊そうとしない限りは(或いは多少壊したとしても)その中で好き勝手やって構わないという豪快さと開放感に溢れている。奈須氏というとその作品に物凄い量の設定、裏設定が仕込まれているイメージがあるが、世界観自体は設定の詰め込みというイメージに反してあちこちに読者が遊べる様な隙間や空き地が用意されている。それがまた「作品が受け手に消費され尽くしてしまう事」を防いでいる。

 誤解を恐れずに言えば、ライトノベルの様なエンタメ小説やサブカルチャーの多くは受け手に消費されて行くものだと思う。『SAO』然り、『Fate』の様なゲーム然り。作品が消費し尽くされて新味が無くなり、飽きられる事は誰しも避けたいだろうが、それは人間にとって死が免れないのと同じ様に、いつかは来る事でもある。そんな消費に抵抗する上で、消費し尽くす事が困難な物量を用意する、或いは供給し続けるというのはひとつの手段として有効だ。

 遊び場を用意する側の力もあれば、その中で遊ぶ力もまた存在する。『GGO』の中で遊ぶ時雨沢氏の姿は、実に生き生きとしている。元々ガンマニアを自認する時雨沢氏ではあるが、自作の中で実在の銃器を実名で登場させる機会はこれまでなかなか存在しなかった。『キノの旅』に登場する『カノン』や『フルート』といったパースエイダー(銃器)は、元になった実銃は存在するものの、作中ではあくまでも架空銃として扱われているし、そもそも『キノの旅』は、毎度毎度のべつ幕なし鉄砲を撃ちまくる様な作品でもない。『一つの大陸の物語』シリーズでもそれは同様だ。しかし、そんなガンマニアに対して『実銃が好き放題に使えるVRMMOFPS』などという格好の遊び場と玩具が提供された結果どうなったかは本作をお読み頂ければ明白である。つまり、『やりたい放題』だ。読む側としてもそれは楽しい。

 実力のあるプロ作家がその中で遊びたいと思える世界を構築する、原作者の力。その中で巧みに遊んでみせる事によって原作の魅力を更に引き出してみせる二次創作者の力。両者が揃うと、読者は更に楽しい。これもまた『Win-Win』な関係なのだろうなと思う。

  

テーマ : 本の紹介
ジャンル : 小説・文学

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

黒犬

Author:黒犬
映画と小説を主食に生きている。
地方の片隅で今日も黙々生息中。

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
検索フォーム
Twitter
リンク
RSSリンクの表示
Amazon