映像作品と原作の微妙な距離感・西尾維新『掟上今日子の挑戦状』

 

 えー、このブログの存在を『忘却』していた訳ではないのだけれど、ちょっと間が空きました。いや、ぶっちゃけ『メタルギアソリッドV TPP』が面白くて読書時間を削りに削ってプレイしてしまい、感想書きまで手が回らないどころか未読本を積み上げてしまっている始末。現状これだとすると、『メタルギアオンライン』が始まったらどうすればいいのか。さらに伊藤計劃作品の読者としては、このゲームをプレイするともれなく『虐殺器官』を再読したくなるという罠があり、未読本の山を尻目に再読に時間を費やしたりしてしまって更に更新が遅れるという。まあ楽しいので良いのだけれど。

 さて、どうでもいい前置きはこの辺にして、本作『掟上今日子の挑戦状』について。
 ドラマ化決定という事で、書店でも『掟上今日子の備忘録』が平積みされているのを見かける様になった。「ドラマ化・映画化等で話題の原作」を置いておく棚は近年どこの書店でも店の一角を占めていると思う。小説や漫画が、アニメや映画、テレビドラマといった映像作品の原作として起用される事は珍しくないと思うのだけれど、最近はそのサイクルも早い印象だ。「ああ、この作品もう映像化するのか」という感じで、なんとなく「人気作の青田買い」というか、自力でコンテンツを作るよりも、人気作を原作に持って来た方がマーケティング的に失敗も少ないだろうし、ある程度話題性が見込めるという打算がある気もする。ただ、出版業界は出版業界で、「ネット上で既に発表されて話題になっている人気作品を書籍化する」という商法に一部移行しているので、人のことは言えない。

 何で本作の内容ではなく、こんな話から入っているのかというと、最近知人と話をした時に「映像作品から入った人は原作を読むのかどうか」が気になったからだ。

 その知人はテレビドラマが好きな人で、色々な作品を観ている。当然その中には小説や漫画を原作にした作品もある。例えば『海猿』とか、『ガリレオ』とか。上でも書いた通り、書店に行けば分かり易く原作本コーナーも設置されている。でもその人は、「自分が好きな映像作品に原作がある事」を意識しない。原作の存在を聞いても「ああ、これ元々は小説(漫画)なんでしたっけ?」という程度で、ドラマはドラマ単体が面白ければそれでよく、そこから原作に手を伸ばす事まではしないのだそうだ。最近も映画『アンフェア the end』を観に行ったとの事だけれど、秦建日子氏の原作小説は読んでいないとの事。読書習慣が無い一般の視聴者にとって、「自分が好きな映像作品の原作」との付き合い方というのは、意外とそんなものなのかもしれない。

 思えば以前、三上延氏の『ビブリア古書堂の事件手帖』がドラマ化された時に、自分の両親が毎週観ていたので「原作小説手元にあるけど読んでみる?」と言ったら「いや、最近目が悪くなって細かい字を読むのが大変だから遠慮する」とやんわり断られた事もある。原作読者としては小説には小説の面白さがあるので読んでもらいたいと思ったのだけれど、これは余計なお世話だった様だ。

 何となく作品が映像化されると、原作も話題になって売上が上がる印象を持っていただけに、自分の周囲で原作に対してそっけない反応が多い事が意外だった。その後何人かの知人に聞いてみたのだけれど、同じ様な反応が多かったので、自分の様に原作の存在を気にする人間は少数派なのかなと認識を改めたのだけれど、仮にこうした反応がごく一般的なのだとすれば、映像作品の側も責任重大な気がする。映像化されたものしか観ない人にとっては、仮に原作があろうとも、ドラマや映画の印象が全てになる訳だから。

 『掟上今日子の備忘録』についても、原作では語り部が隠館厄介から親切守に変わったりしているので、ドラマだとどうするのだろうと思ったのだけれど、そこは隠館厄介に固定されそうだ。まあ、テレビドラマだと主要キャスト間の恋愛模様という分かり易い要素を組み入れるのがお約束の様な部分があるから、今日子さんに好意を寄せる厄介が、毎回「初めまして」と言われる展開は確かに話の流れとして使い易い。ただそうなると、このシリーズの「物語の本筋」については触れないで終わりそうだなと思う。

 本シリーズの物語の本筋は、つまるところ「記憶が1日でリセットされる」という特殊性を持つ忘却探偵・掟上今日子の持つ最大の謎である「なぜ彼女の記憶は1日でリセットされる様になってしまったのか」「誰が彼女に探偵という生き方を与えたのか」という事だ。シリーズが続いて行けば、この謎が解き明かされる事もあるのかもしれないが、本作『掟上今日子の挑戦状』ではまだそうした核心部分についての言及はない。本著の収録作は『掟上今日子のアリバイ証言』『掟上今日子の密室講義』『掟上今日子の暗号表』の3作だけれど、それぞれ個別の事件を解決する内容で、「掟上今日子自身の謎」は棚上げされている。

 この辺は漫画『名探偵コナン』でも同じだけれど、本筋である『黒の組織』関連の話を先に進めなくても、普通に推理漫画として連載を続けて行く事は可能な訳で、人気作になればなる程、作品を完結させない為に本筋の進行は遅れるという形になるのかなとも思う。読者としてはむしろ本筋の謎の方が気になるのだけれど、掟上今日子の謎が解き明かされるのはいつになるのだろうか。その謎解きは忘れない内にお願いしたいと思う。

 

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