理想像を描く、絵空事の効能・支援BIS『辺境の老騎士』

 

 なかなか読書時間が取れないので簡易更新。
 今更ながら『辺境の老騎士』を読み始めた。今2巻の途中だけれど。

 ある事情から、長年仕えた領主の家に引退を願い出た老騎士、バルド・ローエンの旅路を描く物語は、ファンタジーというよりも時代劇の様な味わいだ。池波正太郎氏の『剣客商売』等が好きな人は意外と気に入るのではないだろうか。騙されたと思って、ぜひ読んでみてもらいたい。

 自分はこのブログに頂いたコメントや、友人からの「多分気に入ると思うよ」という言葉から本作の存在は知っていたのだけれど、これまでなかなか読む機会が無かった。でもこれが、実際に読んでみると確かに自分の好きなタイプの小説で、今ちょっとほくほくしている。そういえば「食事シーンが美味しそうな作品と、オッサンが格好良い作品にハズレはない」という名言があったなと。誰が言ったかは忘れたけれど。

 小説投稿サイト『小説家になろう』で連載されていた作品の書籍化であるという事と、書籍化されてから随分経っている作品という事もあるので、ここであらすじを長々と書く事はしないけれど、最初はまるで死に場所を求める旅であるかの様に考えていたバルドが、次第に『生きる』事を目指して行く姿は、若者の成長物語とはまた違った味わいがある。

  “明日死ぬとしても、今は生きておるではないか。”

 この台詞に重みがあるのは、老騎士を主人公にしたからこそだと思うのだ。
 明日死ぬとしても、今は生きている。ならばその生を全うする事、最後まで生き抜く事が自分の進むべき道なのだというこの老騎士の気付きこそ、時に生の実感を忘れがちな自分達を慰撫するのかもしれない。

 老いによってかつての様には体が動かなくなっても、民草を守る為ならば剣を取る事を厭わない『人民の騎士』バルドの姿は、老騎士という言葉に反して瑞々しい。それは彼が己の中の義を曲げずに生きて来たからこそだと思う。現実には誰もがバルドの様に歳を重ね、強くしなやかに生きる事は出来ないのかもしれない。しかし、そういったある種の理想像を描いてみせる事には意味がある。絵空事の効能とは、人に憧れを抱かせる事で、少しでもその理想に向けて人々を牽引する事にあるのだろうから。

 

テーマ : 本の紹介
ジャンル : 小説・文学

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Author:黒犬
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地方の片隅で今日も黙々生息中。

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