ライトノベルらしさも入ってます・三浦勇雄『皿の上の聖騎士 1 ― A Tale of Armour ―』

 

 読むのが遅くなったけれど、何気に気になっていた角川の新レーベル『NOVEL 0』から、とりあえず1冊。栞にも書かれているレーベルのキャッチコピーは『大人になった、男たちへ――』という事で、ライトノベルの読者層の中でも比較的高年齢層向けを狙っているのかどうなのか。それ以前に自分はまともに大人になったのかどうかという話があるのだけれどそこは割愛する。

 作品の内容について書く前に、新レーベルという事で装丁等についての雑感を少々。
 まず装丁。公式Twitter等でも伝えられていたと思うのだけれど、この表紙、ライトノベルらしいイラストが入った部分はまるまる幅広の『帯』になっていて、取り外す事で単色の表紙になるという仕様。本作であれば黄色の表紙に文字だけというシンプルなものになる。
 ライトノベルに限らず、外で本を読む時にブックカバーをかけるタイプの人にはあまり関係が無い仕様なのかもしれないけれど、これは帯を取り外す事で一般文芸風の表紙にもなる事を狙っているのだろうか。

 表紙を開くと、一般的なライトノベルと同様にカラーページがあって、イラストがある。でも、本文中に挿絵は無い。表紙の仕様も含めて、こういうバランス感覚が独特だと思う。既存のライトノベルレーベルとの差別化なのだろうと思うけれど、「これまでと違った事をやる」という事について、それが新レーベルの読者獲得にとってプラスになるのかマイナスになるのかは判断が難しいところ。他にも付属の栞がプラスチック製だったりして、とにかく新しい事を何かやろう、という意気込みが感じられる。個人的に、表紙の色は結構好きかもしれない。

 さて、そんな新レーベルから刊行された本作『皿の上の聖騎士』。著者は三浦勇雄氏なのだけれど、自分は同氏の著作を読むのは本作が初めてになる。どんな話を書く方なのか知らずに読んでみたのだけれど、中身としては割と普通のライトノベルだと思った。レーベルが『これまでと違う事をやります』という意気込みをかなり強めに主張している事と比べれば、意外な程普通というか、癖がない。コミカルな展開もあるしね。もっとも、「ライトノベルっぽさ」を排除して行けば新味が生まれ、既存のライトノベルとの差別化も出来、作品として面白くなるのかというとそんな事はない訳で、この辺りは読者の好みだと思う。「そもそも『ライトノベルっぽさ』って何だ」という話になると泥沼化するのでこの辺にするけれど。

 物語は『大陸の皿』と呼ばれる広大な平野を統べる大国にして『騎士の国』とも呼ばれる国、レーヴァテインから始まる。かつては『大陸の皿』の上の小さな辺境国に過ぎず、『皿の中の豆粒』等と呼ばれていたこの国が、いかにして存亡の危機を乗り越え、現在の大国となり得たのか。そこには後に『聖騎士の鎧』と呼ばれる事になる、霊獣の加護を得た甲冑の存在があった。ヒュドラやドラゴンといった霊獣の力を秘めた兜や胴鎧を身に付けた者は、それら強大な力を振るう事が出来たのだ。そして100年の時が過ぎ、その甲冑は新たな聖騎士に受け継がれようとしていた。

 『聖母の生まれ変わり』等と称され、次代の聖騎士として褒め称えられる姉、アシュリー・フィッシュバーンと、その一歳違いの姉に生まれてから一度も敵ったためしがない弟、アイザック・フィッシュバーン。二人の物語は、姉が聖騎士の称号を継承する『成人の儀』を境に、大きく動き始める事になる。

 完璧超人の姉(兄)と、劣等感を抱く弟(妹)という構図はままある。弟の立場で見れば、自分の完全上位互換の様な姉がいる事で、進む道は数通りだ。
 まずは、姉が進む方向とは違う道を模索する事。全方位に優秀さを見せつける姉であろうと、最終的に生き方を選ぶ時は来る筈で、その時に姉が選ばなかった道に進む事は出来る。
 次は、姉と敵対する事。自分が日の当たる場所に出られないのは姉のせいだという憎悪を抱けば、それを排除しなければならないという強迫観念が人を突き動かす様になる。しかしこのパターンは、遠からず敗北という破滅に至る。
 もうひとつの破滅への道は、自己嫌悪に凝り固まる事だ。自分の存在意義を見失った弟は、自らの存在価値を否定する。卑屈になり、生き方を誤り、転落する。姉からの救いの手を取る事も拒絶する程になれば、後に残るのは絶望だろう。

 最後に、本作でアイザックが進んだのと同じ道がある。それは姉と同じ道を行き、自分が「今は」姉に敵わない事や、「今は」姉よりも劣っているという事実を噛み締めつつ――その事で表面上は姉を嫌う事になったとしても――「いつか」姉と肩を並べ、追い越す為に挑み続けるという道だ。これは困難だが、少年漫画的というか、言い換えれば「ライトノベルらしい」道でもある。そして、その道を選んだアイザックだからこそ、アシュリーの身に振りかかる事になる困難に立ち向かう覚悟を決める事が出来たのだろう。

 というわけで、あらすじを紹介しつつの感想としてはこんなところ。もっと簡単に雑感を書くなら、姉は弟が大好きだし、弟も姉が憎たらしいとか妬ましいとか疎ましいとか嫌いだとかなんとか散々言っている割には口先だけで、何だかんだ言って姉の為に命を張るし、そういう姉弟を見てニヤニヤ出来る人には一定の需要があるのではなかろうか。この弟、ひねくれようとしてもひねくれ切れない真っ直ぐさが、あの姉にしてこの弟ありという感じで、非常にライトノベルとしては真っ当な主人公だと思う。「普通のライトノベルであるという事も悪くはないものですよ」という感想は既存のライトノベルとの差別化を図る新レーベルから出た作品に対してどうかとも思うのだけれど、新しい皿に盛られた料理にも、ちゃんとライトノベルらしさが入っているというのは、割と悪くない味付けなのではないかとも思った。

 

テーマ : 本の紹介
ジャンル : 小説・文学

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地方の片隅で今日も黙々生息中。

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