「刑事もの+ゾンビもの」というわかり易さ・鏡遊『東京屍街戦線〈トーキョー・デッドライン〉』

  

 本作と全然関係がない話からで恐縮なのだけれど、自分はレンタル店に行って映画のDVDを借りて来ようとする時、キャンペーン等で「何枚かまとめ借りするとお得ですよ」と言われると、まあ映画を観るのは好きだし、この際だからと当初借りる予定だった作品以外にも何枚か借りてしまう人間だ。本と同様、映画も雑食気味に色々観るのだけれど、中でも『安定してつまらない。でも借りちゃう』というジャンルがある。それこそが『ゾンビもの』である。

 「ゾンビ映画大好き! もうこれさえあればご飯何杯でも行ける!」というゾンビ映画ファンの方々からすれば喧嘩売ってんのかという話ではあるが、誤解を恐れずに言えば自分もゾンビ映画は好きだ。好きだからこそ借りるのである。そもそもゾンビ映画が嫌いな人間はマックス・ブルックス氏の『ゾンビサバイバルガイド』『WORLD WAR Z』、更には押井守氏の『ゾンビ日記』等に手を出さないと思う。だが、そんな自分が言うのも何だが、手放しで「これは傑作!誰にお勧めしても恥じる事はない!」というゾンビ映画はまず無い。どの作品もどこかB級映画の香りを漂わせている気がする。

 何だか出だしからアサイ氏の漫画『木根さんの1人でキネマ』みたいなノリになってしまったが、ここでようやく話は本作『東京屍街戦線〈トーキョー・デッドライン〉』に移る。

 ゲーム『バイオハザード』で言う所のアンブレラ社のごとき怪しげな組織が不老不死の研究の途上でトラブルを起こし、ゾンビライクな『屍人』が街に溢れ、東京渋谷は壊滅的な被害を受ける。その『死の行進』と呼ばれた災厄の後、『屍人』狩りの為に組織された警視庁刑事部埋葬係の死闘を描くのが本作である。『刑事もの+ゾンビもの』という趣で、難解な設定等は存在しない。

 主人公の切牙鷹は『死の行進』の原因となった組織と浅からぬ因縁があり、屍人を狩り尽くす事を己に課している。だが彼自身も屍人を生み出した技術の亜種とも言うべきものを用いる事で身体能力の強化を行っており、肉体を酷使する度に屍人に近付いて行く。もしも彼が限界を迎えた時には、理性を失って屍人となる前に、その手にした銃に込められた自決用の銃弾を用いて自分で始末を付けるか、仲間に後ろから撃たれる事を覚悟しなければならない。

 こう書くとハードな世界観である様にも思えるが、何かと軽口を叩く主人公と同僚達の掛け合いや、日本刀を振り回して屍人を狩る女子高生等、ライトノベルらしい軽さもあって、重くなりがちな設定を打ち消している。そのバランス感覚がまた『B級ゾンビ映画』を髣髴とさせる。「小難しい話は脇に置いて、取り敢えず週末にアルコールでも飲みながら垂れ流すとそれなりに楽しい(かもしれない)」というのがゾンビ映画だと思うのだが、本作もまたそれと同じ系譜に属する作品なのだろう。「これ前にどこかで観たな」という設定被りが多いのもまたゾンビものの特徴だったりする訳だが、そこもまた同様である。

 ネタや設定が被るというのは大抵の創作物にとって「オリジナリティが感じられない」等のマイナスイメージになる訳だが、ゾンビものに至っては設定が被る作品を探せばきりがない有様なので、作品のオリジナリティよりもむしろ、ありふれた、言ってみればベタな設定を組み合わせつつ、どうやって作品全体を面白くまとめるかという部分がキモである様に思う。その点、本作はエンタメとして成功している。

 ゾンビものの魅力のひとつは、設定がベタだとかワンパターンだとか言われながらも「わかり易い事」である。ゾンビものに思想哲学を持ち込むのは押井守だけで十分だ。まああれはあれで面白いが、同じ事をやって許される人間は限られるだろう。

 何だか褒めているのか貶しているのか分かり難い感想になってしまったが、『死の行進』の真相や、事件の黒幕、主人公の因縁など、本作にはまだ解決に至らない設定も数多くあり、続けようと思えば次巻以降に続けられるだろうと思う。2巻目があるのか定かではないが、もし続くなら、これら未解決の部分にどんな回答が用意されるのかが気になる所だ。

  

テーマ : 本の紹介
ジャンル : 小説・文学

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地方の片隅で今日も黙々生息中。

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