読者は物語にどんな寓意を見るか・時雨沢恵一『キノの旅XX』

 

 少し前、Twitter上で見かけたやり取りに、『学校図書館にライトノベルを置く事が禁止されてしまった』というものがあった。学校図書館に置く書籍としてライトノベルは相応しいのか否か。そもそもライトノベルとは何ぞや。そんな『ライトノベル定義論』に触れているせいか、ライトノベルの感想を書いていらっしゃる本読み界隈ではちょっとした話題になっていた様に思う。

 自分はもうオッサンなので、自分が学生だった頃を振り返っても、学校図書館にライトノベルの存在は無かった様に記憶しているが、今の様にライトノベルだけではなく、キャラノベ、或いはライト文芸と言われる様なジャンルの作品まで幅広く存在する中では、単純にジャンル、或いはレーベルの切り分けでその本を学校図書館に置くべきか否かという判断をするのは、いささか大雑把に過ぎる様にも思う。

 さて、それが『キノの旅』の感想とどう繋がるのかという話なのだが、これもTwitter上で拝見した発言なのだけれど、「『キノの旅』の様に、学生に読んで欲しいと思えるライトノベルも存在する」というものがあった。それを読んで、時雨沢作品の読者である自分はまず頷いたのだが、しかしその後でこう思った。

「大人がどんな価値観に基づき、どう振る舞おうが、またどんな本を読ませたいと思おうが、結局学生=読者は自分が読みたい本を手にするだろうし、読みたいと思えない本を手に取る事もないだろう」

 理由は単純明快だ。自分がそうだから。
 そして次にこうも思った。

「どんな作品を読んだとしても、そこから何を読み解き、何を得るかは読者である自分の側に委ねられているのであって、どんなに名著との誉れ高い作品であっても自分に響かない事もあるし、その逆もまた然り」

 要するに、「読者は外野の言う事など構わず好きなもの読んどけ」という話にしかならないのだった。自分もそうして来た結果、今の様な雑食系本読みになった訳だし。

 「ライトノベルはその名の通り中身も軽くて薄いエンタメ小説なんでしょ(だから自分が敬愛するアレやコレと同列に語らないでよね)」という物言いをオブラートに包んだ上で匂わせたり、ガチガチに理論武装して論文口調で語ったり、或いはド直球で投げ付けたりする方をたまに目にするのだけれど、自分の感覚ではあらゆる小説が同列にあって、それがその時の自分にどれだけ響いたかという事での『お気に入り作品』や『好きな作家』があるに過ぎない。同じ作品や作家を好きだと言ってくれる人がいれば確かに嬉しいし、逆にこき下ろされていれば悲しいけれど、そうした自分の外側にある評価は「何となく聞こえてくるなぁ」というレベルのものであって、気にしても仕方がない。

 この様に、自分の中ではその作品がライトノベルであるか否かは大した問題ではないのだけれど、それでも思う事があるとすれば、こうしたジャンルの違いというものはパッケージの違いの様なもので、その『違い』というのは「作品の質の違い」ではなく、「読者との距離の違い」なのだろうなという事だ。

 例えば自分がここで感想書きを延々とやって来て、一番反響が大きかったのはアーシュラ・K・ル・グィンの『オメラスから歩み去る人々』(『風の十二方位』に収録)の感想なのだけれど、あの作品に満ちている寓意と同じ様に、様々な寓話によって現実問題を風刺している作品という事で自分が真っ先に思い浮かべる作品が、実は『キノの旅』であったりする。

 こういう事を書くと「『ヒューゴー賞』『ネビュラ賞』を取った大作家の作品をライトノベルと同列に語るとは何事ぞ」というお叱りが聞こえてきそうだが、多分幻聴なので無視する。

 自分が思うのは、『オメラスから歩み去る人々』よりも、おそらくは『キノの旅』の方がより日本の若者に近い位置にあり、それこそがライトノベルというパッケージで刊行されている本シリーズの強みなのだろうという事だ。想定される読者により近い様に、より響く様に、テーマをパッケージングする。或いはラッピングする。読者はそれを手に取って、エンタメとして楽しんでもいいし、自分の様に面倒臭いタイプの読者はそこから何らかの寓意を感じ取ってもいい。読者の個性は無限にあるのだから、小説との間で紡がれる関係性も無限にある訳で、結局は何をどう読もうが、どう楽しもうが自由である。ジャンルや作家で線引きをして「○○は読むに(読ませるに)値しない!」などと言うのも自由ではあるが、読者の首に縄を付ける様な事は結局不可能なのであって、エログロだろうが何だろうが作品として刊行され、世に出ている以上、その作品がそれを求める読者と出会う事を阻む事は出来ないという、これはただそれだけの話なのだった。

 そういえば『キノの旅』にもこんな話があった気がするけれど思い出せないという何ともしまらない所で、今日はこれにて。

 

テーマ : 本の紹介
ジャンル : 小説・文学

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

黒犬

Author:黒犬
映画と小説を主食に生きている。
地方の片隅で今日も黙々生息中。

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
検索フォーム
Twitter
リンク
RSSリンクの表示
Amazon