手を繋いで生きるという事・細田守『サマーウォーズ』

 <関連項目>

 映画「サマーウォーズ」公式サイト

 細田守監督の『サマーウォーズ』観て来ましたよ。これだけは初日に行くと決めていたので。
 未見の方でも安心な様に以下追記で。(最近使い方を覚えた)もしもまだ観ていないのならこんな所からはさっさと退場して劇場に行くんだ!以下ネタバレになるので注意。

 ・・・さて、いいだろうか。

 自分もネットを使う様になってからは、もうそれが生活の一部に組み込まれていて、例えば今それが何らかの原因でダウンしてしまったとしたら相当困るだろうと思う。携帯電話も同様だけれど、『それが無くなると生活する上で困る』っていうのは、それだけ便利で有用だという意味でもある反面、悪く言えば依存だと思う。
 そして上の様に書くと必ず『昔の人はそんなもの無くても生活していたのに』とか、『ネット犯罪等の負の遺産が~』とか、『現実と虚構の区別が付かなくなる』とかいうネガティブな意見が噴出する。またネット上のコミュニケーションについても、『現実にお互い顔をあわせて話し合うのが本来のコミュニケーションのあり方であって、不特定多数の相手とお互いの匿名性が維持された状態で行うネット上のコミュニケーションは歪んでいる』等といったいわゆる『現実>ネット』もっと言えば『昔は良かった』的な発言が飛び交う事になる。

 サマーウォーズでもネット上の仮想世界『OZ(オズ)』とは対照的に、田舎に暮らす大家族が持つナマのコミュニケーションネットワーク、親戚縁者や友人知人といった顔の見える者同士のネットワークが描かれる。そして図らずも、OZで起きた大事件に彼等が立ち向かう事になる。
 こうなると、『ほら、ネットなんてものより現実の人間同士の繋がりの方が優越しているんだよ』という話を作るのは簡単だ。だが、サマーウォーズはあくまでも両者を対等に評価する。現実世界での繋がりにのみ価値があり、仮想世界でのそれはまやかしだとする、一部の人にとって耳触りのいいテーマに堕する事が無い。

 サマーウォーズが描くテーマはもっとシンプルで、大きい。それは、現実であれネット上であれ、『手を繋ぐ事の出来る誰かの存在』にこそ価値があるという事、もっと言えば『人間は一人で生きるべきではない』という事に尽きる。
 OZを混乱に陥れた恐るべきプログラム『ラブマシーン』が敗れるのは、どれだけ恐ろしい力を持っていたとしてもその存在が『個』でしかないからだ。彼(或いは彼女)は確かに数多くのアカウントを奪って強大に成長するが、最終的には人間同士の繋がりによって打倒される。

 家を飛び出し、家族との繋がりを絶って一人で生きる事を選択した侘助の過ちとそこからの復帰。そしてラブマシーンとの勝負で窮地に立たされた夏希の前に、『自分のアカウントを使って』と大勢の人々が集った結果としての勝利等、サマーウォーズは執拗に人と人とが繋がって生きる事の価値を訴える。作中で『手を繋ぐ』シーンが何度も描かれるのも、その為なんだろう。

 手を繋ぐというのは、言い換えれば『私は貴方を求めています』『私は貴方と繋がっていたいです』という事だ。改めて言葉にすると物凄く恥ずかしいが、それを言葉ではなくて、手を繋ぐというシーンに集約してみせた所がとても好きだ。夏らしくて、爽やかで。

 自分ももう現実では何年も『誰かと手を繋ぐ』なんて事はしていないんじゃないかと思う。その上人間嫌いだし。でも、それでも誰かとの繋がりを全く求めていないという事は無いと思う。家族とか仲間とかね。ネットに物を書くという事も、誰かとの繋がりを求めての事なのかもしれないし。
 だから、現代人が誰かと繋がろうとして手を伸ばす時、その手は必ずしも生身の手ではないのかもしれない。それは今自分が打ち込んでいるキーボードから電気信号になって変換されて、ネット上を走るデータとして他の誰かの手を求めているのかもしれない。
 そうやってテクノロジーが進化して、人間同士のコミュニケーションのあり方が変わって行ったとしても、本質的なものは変わらずに残るんだろう。問題なのはその差し出された誰かの手に気付いて、恐れずにその手を取れるかという事であって、それが生身の手であれ、仮想のものであれ、大事な事は変わらない。

 当然、(ネット上も含めた)現実にはマイナスのコミュニケーションもあるとは思う。誰かと繋がりを持とうとすれば傷付けられる事もあれば逆に自分が相手を傷付ける事も起こり得る。それに自分が田舎で暮らしているから言う訳ではないけれど、田舎の親戚同士の付き合いは負担に感じる事も多いし、田舎特有の排他的な空気もある。全てが映画の様に美しくは行かない。でも、それを分かった上で、それでもなお人は他者との繋がりを持つべきだという意見には、やはり賛同したいと思う。それを否定するならそもそもここでこんな文章を書いてはいないのだから。

 そして、上記の様な大きいテーマを扱いながら、変に説教臭くならずにちゃんとエンターテイメント映画として成立している所がサマーウォーズの一番いい所なのではないかなと思う。観終わって、爽快感と充実感が得られる、そんな素晴らしい映画だった。

 

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Author:黒犬
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地方の片隅で今日も黙々生息中。

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