世界に滲み出す人の醜悪さ・白井智之『人間の顔は食べづらい』『東京結合人間』

  

 どちらも前々から気にはなっていた作品。
 自分の場合、書店で本を買う時に、「題名を見ればおおよその内容が分かる作品」と「題名から内容が想像し難い作品」ではどちらを手に取るだろうと考えると、後者の方が多い気がしている。だって『人間の顔は食べづらい』ですよ。書影から漂う怪しさも相まって、内容が凄く気になる。『東京結合人間』も、結合人間という言葉がまず強い。『ムカデ人間』みたいな異形の人間を想像してしまうし、それがあながち間違っていないのも凄い。

 どちらの作品も、人間が内面に隠し持っている醜悪さを抽出して推理小説という媒体に落とし込んだ様な内容で、単にグロい、恐ろしい、というだけに留まらないのが強い。目を背けたくなる様な内容なのに読ませる、という作品だ。

 『人間の顔は食べづらい』では、致死率の高い新型ウイルスの蔓延で肉食を忌避する様になった人間が、安全な食肉を確保する為に自分の遺伝子を使い、食人目的のクローンを作成するに至った世界が描かれる。肉として喰う為に業者に依頼して自分のクローンを育てる富裕層がおり、業者が家畜の様に人間を肥育し、畜殺し、食肉加工するという世界はかなりエグイ。

 首を切り落とされた人体がパック詰めされて出荷される世界という、一般的な倫理観からすれば受け入れ難い世界観がそこには広がっている。しかもその食肉は自分のクローンなのだ。そこで起こる事件や推理よりも、この食人が肯定される世界観そのものが何かの暗喩なのではないかと思ってしまう。

 『東京結合人間』では、男女が性交の結果一人の結合人間となる様に進化した架空の人類史の中で起こる事件が描かれる。

 この世界では、男女が性交すると体が融合し、4本の足と4本の腕、4つの目を持つひとりの結合人間になる。脳や骨格といったものまで文字通り結合してしまう訳だが、その過程で『一切嘘がつけない結合人間=オネストマン』が生まれてしまう事がある。一種の脳機能障害とも言える症状だが、嘘がつけない筈のオネストマン達が集う孤島で殺人事件が起こる。容疑者7人は皆オネストマンであり、嘘をつけないはずだが、なぜか全員が犯行を否定する。果たして真犯人は誰なのか。

 推理小説のギミックとして嘘がつけない人間=オネストマンという設定が必要なのは分かるが、その為に結合人間というおどろおどろしい存在が生み出されるに至るのは、ある種の『過剰さ』を感じさせる。

 どちらの作品も、小説としては容疑者や探偵役が登場し、物語が展開する中で推理が組み立てられて行くオーソドックスな推理小説の形をとっているものの、その推理やトリックを成り立たせている世界設定には人間の醜悪さを煮詰めた様な過剰さがあり、人によっては嫌悪感に繋がりかねない。だが、それでもなお読ませる。この、『魅力』と言うには憚られる様な牽引力が、両作に特異な存在感を与えている。

 人間は道徳的な側面もあれば、嫌悪を催す様な負の側面もある。例えば自分の利益の為に他者を食い物にする事。弱い立場の人間に隷属を強いる事。所有欲、性欲、支配欲等の感情に突き動かされて相手を踏みにじる事。そういった負の側面を強調して世界観の中に鋳込むならば、きっと本作の様な世界が生まれるのではないかと思う。

 文字通り『人間を喰う』世界。性交が異性との融合と化す世界。

 その世界の醜悪さから読者が目を離せないのは、その嫌悪感が全くの創作ではなくて、自分達が現実の中で日々思い知らされているそれと地続きであるからではないかと思う。作品の中に漂う醜悪さは正に自分達から滲み出しているのだと気付いているからこそ、読者は目を逸らす事が出来ない。そんな気がする。

  

テーマ : 本の紹介
ジャンル : 小説・文学

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