そのメッセージは希望になるか・藻野多摩夫『オリンポスの郵便ポスト2 ハロー・メッセンジャー』

 

 ライトノベルの公募新人賞でデビューした新人作家にとって、受賞作出版後の次回作は難関だと思う。

 通常、公募新人賞に送る作品は、その作品単体での完成度の高さを要求される。ただライトノベルというジャンルの特徴として、受賞作は続編を求められる事が多い。受賞作は受賞作として、ひとつの作品として閉じ、また新たな作品を一から書いて世に出すという選択肢も無くはないが、少数派だと思う。

 本作もまた、第23回電撃小説大賞で選考委員奨励賞を受賞したデビュー作『オリンポスの郵便ポスト』の続編として書かれている。ただ、作者が本著のあとがきで述べている様に、1巻が物語として綺麗にまとまっているが故に、続編を出す事についていかがなものかという思いもあった様だ。そしてそれは、本作に限らず、ライトノベルが持っている問題点のひとつでもあるのだろう。

 昔、何かで聞いた話で、「将棋の駒は、最初に盤上に並べた時の配置が最も整った布陣なのであり、一手動かして行く毎にそれは乱れて行ってしまうのだ」というものがある。ただ当然ながら、駒を動かさなければ相手に勝つ事は出来ない。自分が思うに、ライトノベルにも似た様な所があって、デビュー作で将棋の盤面に駒を並べた作者は、その後ライトノベル作家として大成して行く為に続刊を出さなければならないのではないかと思う。それはデビュー作が持っていた精緻な盤面を乱しながら先に進む事にもなる訳だが、それは作者も知った上で、それでもやらなければならない。そこに2作目が抱える難問があるのだろう。

 さて、話を本作の内容に戻すが、1巻を読んだ読者が疑問に思うのは、火星のテラフォーミングと移民計画が、《隕石嵐》(メテオストーム)という大災害と、それが引き金となって発生した半世紀に及ぶ内戦で頓挫してしまっている現状で、地球の側は何をしていたのかという事だ。地球は火星を見捨てたのか。その疑問に対する明確な答えは、1巻では意図的に省かれていた様に思う。

 火星の側が地球との通信手段を失った事は仕方がない。しかし地球の側は、通常なら探査機を送る等して火星の惨状を知る事が可能な筈である。そこで生じる疑問について、1巻では、「地球もまた、火星同様に《隕石嵐》による壊滅的な被害を受けたのではないか」「《隕石嵐》は地球側によって引き起こされた人為的な災害なのであり、だからこそ地球からの助けは来ないのではないか」という推論が述べられていた。そして本作を読むと、答えはどうやら後者寄りであるらしい事が分かる。

 火星を救う為、地球から全権大使を乗せた宇宙船を派遣する。

 今更、という気もするが、地球もまた《隕石嵐》による被害を受けていたらしい事を匂わせる記述があるので、程度の差はあるものの何らかの被害はあったのだろう。この辺り、説明不足なのか意図的な省略なのか初期設定からの変更なのか悩みどころなのだが、ともあれ宇宙船派遣計画は実行に移される。しかしながら、何者かの謀略の存在を思わせるある事件の結果、火星着陸目前で問題が発生し、全権大使を任された少女、メッセは着陸艇で一人火星に降り立つ事になってしまう。強行着陸を実施した母船との通信は途絶、当然地球との連絡も出来ない。

 家柄とメディア受けする容姿を武器に全権大使の地位に収まったメッセは、当然ながら一人では何も出来ない。右も左も分からない火星の地で、ローバーの運転も出来ないお嬢様には母船を探す事もままならない。そこでメッセの乗った着陸挺を発見したエリスが、共に母船を探す事になるのだが――。

 テラフォーミングが失敗し、災害と内戦の結果、緩やかに滅亡の道を歩む火星の人類にとって、地球からのメッセンジャーは希望になり得るのか否か。そして地球からの宇宙船派遣計画の阻止を企んだ黒幕の思惑とは何か。今後この物語はある意味で1巻の完成形を崩しながら、連作として新たな結末を目指して行く事になるのだろうと思うが、読者として次に期待するのは連作としての結末に本シリーズがきちんと辿り着く事だ。エリスが旅をする様に、作者もシリーズを完結させるまでの長い旅を始めた。その結末を見守りたいと思うし、その旅のゴールが、続編を出した事が間違いではなかったと思える様な結末であって欲しいと思う。

 

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Author:黒犬
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地方の片隅で今日も黙々生息中。

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