怪獣映画の美味しい所、全部乗せ・大樹連司『GODZILLA 怪獣黙示録』

 

 「滅びるのは、人か、ゴジラか。」という事で何かと話題の虚淵玄脚本によるアニメ映画版ゴジラ『GODZILLA 怪獣惑星』の前日譚……と言ってしまえば一言で済むかというと、そうは問屋がおろさない特濃怪獣小説が本作『GODZILLA 怪獣黙示録』だ。

 映画では、怪獣の出現と、その頂点に君臨するゴジラによって絶滅寸前に追いやられた人類が、地球を脱出して他の惑星への移住を計画するも失敗。地球帰還派が主流となり、故郷の奪還をかけてゴジラとの決戦に挑むという物語が展開する。

 本作はその前日譚として、怪獣の出現とゴジラの登場によって人類がいかにして万物の霊長の地位から転落するに至ったかという事が語られる。

 巨大災害を超える世界規模の危機に対し、個々の人物の証言から全体像に迫るという描き方は、映画化もされたマックス・ブルックス氏の『WORLD WAR Z』でも用いられたオーラル・ヒストリーという手法だ。世界各地に出現した怪獣と、各国の対応。その中で翻弄される個人の体験。その集積の上に生々しい怪獣との闘争が現出する。ゾンビものでそれをやった『WORLD WAR Z』も面白かったけれど、怪獣映画でもその手法が有効である事を本作は証明した。

 ただ、本作が面白いのはオーラル・ヒストリーという手法を選んだ事よりも、むしろ作品の中に過剰なまでに詰め込まれた怪獣映画ネタ、特撮映画ネタの数々だ。それはゴジラシリーズだけに留まらない。個人的には第一章のカマキラスの時点でそこまで拾って来るのかと思うと同時に、小説という媒体ならではの強みを再確認した。

 小説は映画と違い、尺や予算の制約を受けない。作者の力量次第では無数の怪獣を登場させた上で世界観を損なう事無く物語をまとめ上げる事が可能だ。映画の予告編を観た後で本作を手に取った自分も、まさか目次にヘドラやビオランテ、ジラの名前があるとは思わなかった。そして作中での登場のさせ方にも唸らされた。ていうかここまで来るとずるい。好きしかない。

 かつて福井晴敏氏が『機動戦士ガンダムUC』で宇宙世紀の一番面白い所、美味しい所を全てかっさらった上で全部乗せした様なガンダムをやってくれた時にもずるいと思ったけれど、怪獣映画ネタをこれでもかと詰め込んだ上で同じ事をやってくれた大樹連司氏にも同じ様なずるさを感じるのは自分だけだろうか。もちろんここで言う「ずるい」とは「すいません大好きですそういうの」という意味だ。

 怪獣映画が大好きで、本作を未読の人がいると思うので「これが出ます」というのは目次で分かる部分以外は避けたいのだけれど、本音を言えば言いたくて仕方がない。だって○○とか○○とか平然と出て来ますからね。『機動戦士ガンダムUC』で言えばマリーダさんの過去が明らかになった時に唸るしかなかったというか「やってくれたな福井晴敏」としか言えなかった事を思い出すレベル。それが怪獣映画、特撮映画をベースにして全編に渡って散りばめられた時の破壊力たるや。よくアニメ映画版の前史として通ったなこれ、としか言えない。

 というわけで怪獣映画が好きな方は脳汁が出るレベルで楽しめると思うのでぜひ。きっと同じ気持ちを共有できると思うので。

  

テーマ : 本の紹介
ジャンル : 小説・文学

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地方の片隅で今日も黙々生息中。

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