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全ての権利は有料である カルロ・ゼン『ヤキトリ2 Broken Toy Soldier』

 

 戦争と平和だったら平和の方が良いに決まっているし、誰もその事に反対しない。でも、自分がこの世界のどこで、どんな立ち位置でその『平和』を享受しているのか考え直す事は多分必要で、その事を世界一怠っている国が、この日本なんじゃないのかという気はする。

 という訳で、2巻だ。作品全体について言いたい事は1巻の感想の中で書き切った感があるのだけれど、それでも敢えて書くとするならば、この2巻を読んで強く意識したのは『全ての権利は有料である』という事だ。それは作中のいたる所に現れている。

 例えば作中では登場人物達が、栄養バランスは取れているのだろうが致命的に不味い戦闘糧食である『大満足』を無理矢理飲み込みつつ「マクドナルドのハンバーガーが食べたい」とぼやく。『大満足』は無料だが、マクドナルドのハンバーガーは値が張る。「美味いものが食べたければ相応の金を払え」という事だが、本作を読み進めて行くと、これはその他のもろもろの事にも同じ様に当てはまる問題なのだという事が分かる。作者がしつこい位に繰り返し「不味い『大満足』に辟易する登場人物の様子」を描写するのは、自分達にこの現実の過酷な(そして不可避な)問題を理解させる為だ。

 『全ての権利は有料である』

 貧乏人が不味い食事を、これではまるで「餌」だと知りつつ耐え忍んで口にしなければならない様に、本作では独立を望む勢力もまた支配者に対して「金で独立という権利を買う」事を要求される。端的に言って酷い話なのだが、権利を手にしたいならば、相応の対価を支払わねばならないというのは、何も本作が際立って酷い話を作っているのではなく、現実の世界に於いても当然の事なのだった。悲しいかな。

 金が欲しければ仕事をして稼げ。他人に使われるのが嫌なら、自らリスクを取って起業するなり自営業を営むなりしろ。義務を果たさずして権利を主張するな。全ては自己責任だ。生活保護受給者の中には怠惰な人間(所謂フリーライダー)が混じっていて、種を蒔かずに実を食べている。そんな奴らを許すな。排斥しろ。そうした論調が近年強まっている。こんな意見が富裕層から出ているのなら普通のディストピア小説なのだろうが、現実が面白いのは、実際にそれを口にしている中に自分と同じ様な「日々苦労して何とか糊口を凌いでいる」中間層以下の人々が決して少なくない割合で含まれているのだろうと思われる事だ。いや、ちゃんと統計データを示せる訳ではないので、あくまでも自分の皮膚感覚だけれど。

 自分が苦しいながらも労働や納税といった責任を果たしているからこそ、そんな自分に今以上の負担を背負わせてくる社会的弱者がお荷物の様に感じられて許し難い。だからこの国では弱い者が弱い者を叩く。そして強い者は、黙ってそれを見ているだけで安定した暮らしが送れる様になっている。

 『全ての権利は有料である』

 有料というのは、単純に金を積めという話ではない。金を稼ぐ為に自分達が人生の少なくない時間を労働に費やす様に、金というのはひとつの象徴であって、自分達は例えば金を稼ぐ為に色々なものを支払っている。であるならば、その次に自分達が理解しなければならないのは、「自分がその対価を支払わずに何かの権利を享受しているのなら、それは自分の代わりに対価を支払わされている何者かがいる」という事実だ。

 今の自分達が得ている平和。基本的人権。表現の自由。思想及び良心の自由。そういったものも、タダではない。またもっと小さな事、例えばコンビニに行けばいつでも食べ物が買えるだとか、製造コストと見合っていないのではないかと思える様な低価格で高品質の製品が買えるだとかいう事も、何かのマジックでもトリックでもなく、どこか遠い外国で製造コスト(主に人件費)を買い叩いているからこそ許されている事だ。こうした世界では、自分達は被害者であると同時に加害者でもある。その関係性から自由であるという人を、自分は知らない。仮に今の自分達が対価を支払わずに権利を得ているのだとすれば、それは無料なのではなくツケを回しているだけだ。誰に? もちろん、将来それを精算する羽目になるであろう、顔も知らない「誰か」にだ。

 こういう世界の仕組みを理解する為に、本作は向いている。
 すべての権利は有料であるという事。それが理解できたら、ようやく自分の身の処し方を省みる番だ。反省点が多くて、嫌にはなるけれど。

 

テーマ : 本の紹介
ジャンル : 小説・文学

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Author:黒犬
映画と小説を主食に生きている。
地方の片隅で今日も黙々生息中。

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