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無名の英雄達が歩んだその先に・真藤順丈『宝島』

 

 本作は第160回直木賞、第9回 山田風太郎賞を受賞した小説であり、世間の注目度も高い作品だと思う。そしてTwitterでも書いたけれど、各賞を受賞した事よりも、「沖縄の戦後史」を描いた作品として、物語そのものの評価以外の所で注目され、その事で本作を政治的に称賛したり、逆に批判したりする人達が大勢出てくるだろうと思う。

 だから最初に書いておく。自分はこの作品が好きだ。
 政治的に、思想信条的にどうこうという話ではなく、数々の困難に見舞われながらも、それぞれに「生きる」という事から逃げなかった登場人物達を、誇らしく思うからだ。

 あらすじを語る事は他に譲ろう。その代わり、自分がなぜ本作を読もうと思ったのか、という話を書きたい。

 自分は「文学賞の受賞作だから」「ベストセラーだから」という理由で本を買う事はあまりない。それよりは「自分に『刺さる』作品かどうか」という所に関心があって、誰でも知っている様な作品が刺さる事もあれば、マイナーな作品が刺さる事もある。あとは、自分が関心を持っているテーマが描かれているかどうか、という部分だ。

 本作が直木賞を受賞して、その内容が「沖縄の戦後史」(この言い方は「沖縄には本土の様な『戦後』など存在しなかった」という向きからすれば噴飯ものかもしれないが、自分の様な東北の片田舎で産まれた人間が外から沖縄の歴史を見て書いている言葉と思ってご容赦頂きたい)を描くものだったからだ。

 自分の地元である福島県は、ご存知の通り原発事故の只中にある。

 原発事故が起きた後、それまで普通に稼働していた原子力発電所を「いつか事故を起こすかもしれない厄介な施設」とみなす人々が増えた。そしてそれを沖縄の米軍基地と重ね合わせる人々が登場して、「国策推進による負担やリスクを地方が引き受けるという構図は、沖縄の米軍基地も各地の原発も同じだ」と主張し始めた。ただ、原発推進反対運動と、基地反対運動が連携できる種類のものなのか自分には分からなかった。

 そして自分は沖縄が抱える基地問題について、何とも言えない居心地の悪さを感じ始めた。

 原発事故について言えば、地元は大変苦しんでいる。ただそれと同じ文脈で語られる基地問題については、自分もむしろ沖縄に長年負担を強いて来た『加害者側』の人間なのであって、その沖縄の苦悩を知りもしない。沖縄の苦悩を「想像する事」と、「確かに『知っている』と言える事」の間には超え難い壁があって、自分はそれを破れないだろうと思う。それが自分にとって都合の悪い原発事故が起きたからといって、急に基地問題の理解者かの様に振る舞うのは違うのではないかと思い直した。福島と沖縄を比較して、そう思う。

 福島に原発が誘致される時、そこには「地元の雇用確保」「原発受け入れによってもたらされる交付金」等の利点があった筈だ。受け入れる方はその利点とリスクを秤にかけた筈だし、東京電力にしろ、国策で原発推進を行った政府にしろ、何も「金の力で福島に原発リスクを押し付けてやる」などと思っていた訳ではなく、都市部と地方の経済格差を埋め、地域振興の一助となるべく「良かれと思って」行った筈だと思う。福島の問題は、最初は「善意」から出発したのだろう。結果が悪い方に転がったのは残念だけれど、その結果をもって最初から福島が踏み躙られていた、軽んじられていたと考えるのは穿ち過ぎだと思う。

 翻って沖縄の人々は、恐らく最初から発言権も無ければ拒否権も無かった。

 本作に倣って書けば「アメリカー」が、沖縄に基地を置き続ける事について地元に許可や理解を求めた事はないだろう。沖縄戦から占領統治を経て本土復帰を果たした現在でも、沖縄と本土、沖縄とアメリカとの間には深い溝がある。ある意味、本土の日本人はアメリカに沖縄を差し出す事で自国の安全保障を担保し、アメリカは沖縄に基地を置き続ける事で太平洋の覇権を握った。その「国家対国家」の利益の為に、あらゆる問題を肩代わりし、背負って来たのが沖縄の人々ではなかったかと思う。

 前置きが長くなったが、これらの経緯から、自分は沖縄の戦後史に目を向けるべきだと思って本作を手に取った。ただ、自分が本作を好きなのは、沖縄の戦後史に正面から向き合うというテーマ性だけが理由ではない。沖縄の過酷な時代背景の中で、恐らくは本作の登場人物達の様に必死に生きた人々が実在しただろうと思わせる作品だからだ。

 米軍基地から物資を略奪する「戦果アギヤー」達の中でも英雄視されていたオンちゃん。行方知れずになった彼の姿を探し、追い求めながら、やがてそれぞれの人生を選んで行くグスク、レイ、ヤマコ。彼等は架空の人物だけれど、当時の沖縄で彼等と同じ様に生きた人々はいただろう。刑事として、教師として、或いは裏社会の人間として。その他あらゆる沖縄の人々が、沖縄が置かれた現実の中で、より良い未来を求めてもがいていた。時に笑い、歌い踊り、怒り、憎み、赦し、涙を流し、叫んだ筈だ。

 個々の人間の努力ではどうにもならない様な、国と国、島と本土の関係の中で、それでも本当の意味で必死に戦った人々。何度も期待を裏切られ、絶望しても立ち上がって来た人々。そうした人々の歩みが歴史になって行くのだろうと思う。教科書に名前が載る様な人達の言動や決断だけが歴史なのではなく。そう思えるだけの熱量が、本作にはある。

 きっと英雄は戦果アギヤーだけではなかった。それぞれの心の中に求める英雄の形があって、それに恥じない様に生きようとする人々、その一人ひとりが本当の英雄なのに違いない。そうした無名の英雄達を見て、その生き様を知って、自分達はどう生きるのか。本作はその事を問うているのではないだろうか。

 

テーマ : 本の紹介
ジャンル : 小説・文学

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Author:黒犬
映画と小説を主食に生きている。
地方の片隅で今日も黙々生息中。

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