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世界の滅びが、孤独の終わりになるのなら 大槻涼樹・虚淵玄『沙耶の唄』

 

 唐突だが、自分は『終末の過ごし方』と『沙耶の唄』というPCゲームをこよなく愛する人間なので、本作については誰に頼まれた訳でもなく語らねばならないのだった。というか、かつてその2作品をプレイした時も、自分は誰に頼まれた訳でもなく発表の場を持っている訳でもないのに長文の感想を書きなぐり、友人に送り付け、このゲームが、テキストが、物語が、いかに自分に刺さったかという事を分からせようと必死だった。当時は『刺さる』という表現はまだ無かったけれど。

 「『沙耶の唄』は誰が何と言おうがハッピーエンドである」というのが当時の自分の持論であり、その事を訴える文章は「分かって欲しい」という願望よりもむしろ「分かれ」という命令形に近いものだったと思う。

 ……単に、気持ち悪い奴である。迷惑な奴とも言う。

 かつて書いた文章はもう手元に残っていないが、そんな自分が今本作を読んで思う事は、「若かりし頃の自分は確かに気持ち悪い奴であったが、あながち間違った事も言ってはいなかった」という事であり、個人と社会、或いは世界というものの関係に執着していた自分が、多分今も同じ「わだかまり」を抱いたまま生きているという事の再発見でもあった。

 あまり主語を大きくすると嘲笑されそうだが、自分も含めたいわゆる『ロストジェネレーション』と呼ばれる世代は、社会、ひいては世界の中に「自分の居場所がない」と感じる事が多い世代だった様に思う。

 大人の言う事をよく聞いて、真面目に勉強をして学歴を積んで、良い会社に入って安定した生活を手に入れる事。そんな今となっては誰も信じない様な人生設計は、自分が中学生の頃まではまだ有効だった。それが、いつの間にか偏差値教育の否定が始まり、バブルが弾けて大人達は自信を無くし、子ども達に対して「正解」を示す事が出来なくなった。

 とにかく「型にはまってはみ出さない事」「一度たりとも間違わない事」を幼少期に叩き込まれた自分達は、やがて中途半端に個性を要求され、次いで不況の中で社会に放り出され、各々「自己責任で」自分の居場所を掴む事を求められたのだった。これまで散々言外に「自分達の言う事を聞け。自分達が敷いたレールの上を走れ」という態度を取って来た大人達は、この時には梯子を外しておいて何も言わなかった。いや、言えなかったのかもしれない。大人達もまた、道を見失っていたから。

 社会は、世界は狭量だった。

 自分は、自分自身の至らなさを全て世代や社会のせいにしてしまいたい訳ではない。ただ、自分は失敗したのだろうと思う。世の中の価値観や仕組みが変わっていく中で、自分自身のあり方を変えて順応する事にも失敗したし、社会のあり方に異を唱えて変革を促す事にも失敗した。もっと言えば、気に食わない社会を壊す事にも失敗したのだろう。だから自分は、「終わる世界」の物語に異常に執着するのかもしれない。

 居場所の無さや「生き苦しさ」は、常に感じていた。

 だから、この物語の中で『沙耶』という「決してこの世界に在る事を許されないだろう存在」が、同じ様に疎外された存在である郁紀と出会って、恋をして、愛を知って、その結果としてこの世界が壊れるのなら、壊れればいいじゃないか、というのが自分の結論になったのだろう。

 世界が壊れるのなら壊れれば良い。人類が滅ぶのなら滅べば良い。その滅ぶ側に当然自分が入っているとしても構わない。その滅びの代わりに、『スッタニパータ』で語られる『犀の角』の様にただ独り歩んで来た沙耶の孤独が終わり、彼女が見付けた恋が花を咲かせて、実を結ぶのであれば、それはハッピーエンドと言って差し支えないものなんだよって、きっと当時の自分は言いたかったのだろうし、その思いは今も変わらないのだろうと思う。

 ここから先は余談というか蛇足だ。

 自分が「今ある世界が、現実が壊れて行く」物語に執着するのは、きっと中途半端にこの世界に期待しているせいだ。だから理想が実現しない事に怒ったり、恨んだりしている。束縛されていると言い換えてもいい。もっと若い世代は、自由だ。その想像力は、異世界を次々と創造して行く。この世界に縛られないで、自分がいるべき場所、望む世界、そしてそこに立つ自分の姿を如何様にも変えて行ける。その軽やかさを自分は羨む一方で、どこか乗り切れないでいるのだろう。それは要するに自分が「古いタイプの人間になった」という事なのかもしれない。

 

テーマ : 本の紹介
ジャンル : 小説・文学

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Author:黒犬
映画と小説を主食に生きている。
地方の片隅で今日も黙々生息中。

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