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世界の終わりを待ちわびながら・詠坂雄二『人ノ町』

 

 ずっと心のどこかで、『世界が滅びないかな』と期待している。

 自分は人間が嫌いだ。その中には自分も含まれる。この世界には人間が多過ぎる。

 友人に廃墟好きがいて、実際に現地に行く程ではないのだけれど、自分も何となくたまに動画や写真を見たりする。かつては人で溢れていた街や施設が、今は無人になって少しずつ朽ちて行く光景を見るとなぜかほっとする。

 自分はウィル・スミスが主演していた映画『アイ・アム・レジェンド』の前半が好きで、他に誰も生存者がいない(ウイルス感染者は闇の中にうじゃうじゃいるけれど)街で彼が佇んでいるのを見ると、「別に生存者なんて見付からなくても良いのにな」と思う。それでは話が進まないから仕方無いのだけれど。

 伊藤計劃氏の『虐殺器官』で出て来る『「プライベート・ライアン」の冒頭15分』みたいなものだと思う。別にウィル・スミスが演じるネビルが頑張って生存者を発見して、彼等を救うみたいな後半のストーリーを自分は求めていない。ただ滅んだ世界があって、その中に佇んでいる男がいて、もう戻らない崩壊前の世界の痕跡をそっと指先でなぞっている様な映像が見たいだけだ。

 自分には「ポストアポカリプスの世界なのだけれど、なぜか自分は生きていて、その世界を歩き回れる」という都合の良い夢があって、多分それは絶対に叶わないし、自分なんかが世界の破滅を生き延びられる訳がないのだけれど、だから自分は割と本気で不老不死になりたいと思っている。それはなぜかと言うと、「自分達が今この中途半端な世界でもがいている事に、果たして意味はあったのか」という答え合わせがしたいからだ。

 普通に生きているだけでは、それは絶対に出来ない。だって答えを見る前に死んでしまうから。

 もっと言えば、何らかの理由で今の社会が完全に壊れてしまって、文明が後退して全てが御破算になった世界で「かつて人類はあれだけ頑張って宇宙にまで手を伸ばしていたのに、今はもうその技術も絶えてしまって再現できない」位になった辺りで、ようやく自分は人間の事を好きになれるかもしれないと思う。屈折しているけれど。

 本作もまた、そうしたポストアポカリプスの物語なのだという事が次第に明かされるタイプの世界観を持っているのだけれど、その世界を旅する旅人の視点は妙に乾いている。その事にも理由はあって、読者は物語を読み進める内に旅人の正体や、その旅の目的を知る事になる。

 個人的にはこの旅人を羨ましく思う一方で、自分だったら様々な町を巡り、様々な人と会うのではなく、むしろ誰もいない場所を延々と巡り歩きたいと思う。かつて人が生きていた場所。朽ちた建築物が林立する中を、あてもなく歩き続ける様な。そこに置き去りにされた本や写真や、誰かの生活の名残に指を這わせる様な。

 そういう形でなら、自分も人間が好きでいられるかもしれないと思うのだ。

 

テーマ : 本の紹介
ジャンル : 小説・文学

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黒犬

Author:黒犬
映画と小説を主食に生きている。
地方の片隅で今日も黙々生息中。

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