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緑の手を持つ方々へ・柞刈湯葉『人間たちの話』

 

 短編小説を読むのが好きだ。

 長編と短編で何がどう違うのかというと人それぞれだろうと思うのだけれど、自分は何となく短編小説を読む時に『作者の頭の中』が垣間見える様な気がする事があって、それが何だかとても好きだったりする。もちろんこれは読者である自分の勝手な想像だけれど。

 本を読むのが好きだったり、自分でも小説を書いたりしてみた経験がある人は何となく想像できると思うけれど、日々の生活の中で「あ、これ何だか物語の種になりそうな気がする」という気付きというか、思い付きを得る事がある。今拾ったこの種を土に蒔いて水をやって育てたら芽が出そうだな、みたいな。でも、大抵そういう『物語の種』は土に蒔かれる事もなく、或いは蒔かれただけでその後の水やりをおろそかにされたりして、ちゃんと育たずに忘れ去られる。

 その、自分達が枯らしてしまう物語をちゃんと育てる事ができる人を、小説家という。

 中には物語を書き始めるよりも、ネタを思い付く事の方が大変だという人もいるかもしれない。でも自分は逆のパターンで(他の人とネタがかぶるという心配を除けば)やはり小説を形にする方が大変だと思うタイプだ。だから、そこをおろそかにしない小説家という人達を、自分は尊敬している。

 ここでちょっと昔話というか、ヨタ話(ヲタ話?)をする。自分の友人に機動戦士ガンダムシリーズが大好きな奴がいて、彼が中学生だか高校生だった頃に「僕が考えた最強のモビルスーツ」みたいなネタ話をしていた事がある。まあガンダムオタクなら誰でも通る黒歴史なのだが、その中で「エネルギーパックの全容量を1発で撃ち切る強力なビームライフル」というネタがあった。これって数十年後の今思えば機動戦士ガンダムUCで登場するビームマグナムなのだけれど、友人が「あのネタ先に思い付いたの俺なんだよな」って騒がなかった事から察すると、多分本人も自分で考えたネタを忘れてしまっている。

 思い付きだけで、遂に書かれなかった物語というのはこういうものだと思う。

 小説や漫画、アニメや映画等に触れた時に、自分達がつい思う「自分だったら」っていう空想。或いは日々の暮らしの中で「ここから何か物語が書き始められそうだ」と思う時の気付き。そういったものをきちんと捕まえて、形にする事がどれだけ大変か。そしてその「大変さ」みたいなものを読者に悟られない様に、読者が物語に没入できる様に整えて差し出す事ができるだけの力量。そういうものを持っている人がプロになって行くのだろうし、自分はそうした作品を読んで「凄いなぁ」とか「その手があったか!」とか「そっちから来るの!?」とかいちいち大袈裟なリアクションをしつつ、楽しいやら悔しいやら感心するやらでとても忙しい。

 そして短編集というのは、そうして形になった様々な物語を一冊の本でまとめて楽しめる所がとても良い。

 本著においても、ひとつひとつの思い付きはそんなに突拍子もないものではない。
 「極端な監視社会」とか「異星人にも食事を提供するラーメン屋があったら」とか「透明人間が実在したら」とか。誰でもその『種』を拾った事がありそうな話だ。でも、それをきちんと育て切った人はあまりいない。

 だから自分は「あの種、ちゃんと育ててあげられたら、こんな凄い花が咲いたんだ」なんて、ちょっと目を細めてしまう。もし自分でも熱心に小説を書いている人がいたら、その咲いている花の違いや、枝振りの違いなんかを見比べて楽しんだりするのかもしれない。似た種を蒔いても、そこから咲いた花や実は、それを育てた人の色になっているものだと思うから。そう思うと『誰も見た事のない、育てた事のない種を世界のどこからか見付けて来る事』を才能と言うのではなくて『気付いたらその手に握っていた種を、きちんと育てて、花を咲かせてあげられる事』や、その地道さを才能と呼ぶのかもしれない。

 前もどこかで書いた気がするけれど、西田敏行さんの『もしもピアノが弾けたなら』っていう歌は、あれはあれで不器用な男性に対する優しさの様なものが感じられて良い歌だけれど、でもそれを聴いた自分達が無邪気に「もしもピアノが弾けたらいいのにな」って願ってしまう裏で、「ピアノが弾ける人っていうのは毎日少なくない時間をその練習に捧げ続けているからピアノが弾けるんだぜ」っていうごくごく当たり前の事を忘れがちなんだなって思う。

 だから自分は本著の収録作の『宇宙ラーメン重油味』を読んで、『消化管があるやつは全員客』というパワーワードにゲラゲラ笑いながら、そして「もー、こんなのずるいってー絶対面白い奴じゃん」とか言いながら、自分が至れなかった場所で今日も地道な努力を続けている人達の事を、やっぱり好きだなって再確認したりするのだ。

 そしてできれば、そういう好きなものを好きだってはっきり言う事をこれからも続けて行きたいと思う。まあこれはこれで、結構大変ではあるのだけれど。

 

テーマ : 本の紹介
ジャンル : 小説・文学

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黒犬

Author:黒犬
映画と小説を主食に生きている。
地方の片隅で今日も黙々生息中。

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