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生きる為の扉を開けて・佐野徹夜『さよなら世界の終わり』

 

 唐突だけれど「この人、作家にならなかったら生きていられなかったんじゃないか」みたいな人がいて、そういう人が書いた作品を読むのが好きだ。酷い話だね。

 これは何にでもそうで、自分は歌手や役者やスポーツ選手や、その他もろもろについて「この人はきっと夢に全てを費やして来た人で、そうでなければ生きていられなかったのかもしれない」と思う事がままある。というよりも、『夢』っていうのは、そういうものであって欲しいという勝手な願いがあって、それを相手に投影してしまう。なぜって、そうでもしなければ夢を諦めて生きている自分の立つ瀬がないから。そういう卑しさを、自分は持っている。

 当たり前の話だけれど、何にせよプロとしてやって行くというのは狭き門で、高校球児が全員甲子園球場で戦える訳ではない様に、そして甲子園でプレーした選手が全員プロ野球選手になれる訳ではない様に、自分達は夢に振り落とされて行く。ふるいにかけられて行く。お前はしょせんここまでの奴だよ、と肩を叩かれて行く。

 そうして自分の中で夢との折り合いをつける。

 諦めた夢を振り返る事なく、全く違う道に進む人もいるし、自分の様に未練がましくたまに後ろを振り返る様な真似をしている奴もいる。どれが正解だとか、そんなものはきっとなくて、夢を諦める事になった人間は、皆がそれぞれに自分を納得させられるだけの理由を探して行く。

 夢が叶わなかった現実を、これからも生きて行く為に。

 本作を読んだら、そんな事を思い出した。吐きそうになった。

 本著のあとがきにある様に、作者の佐野徹夜氏にとって本作は人生で一番最初に書き上げた小説だったそうだ。それまで一度も小説を完成させた事が無かった作者が、小説家になる為に会社を辞め、自分を追い込んで、遺書のつもりで書き始めた作品。それは小説家としてのデビュー作にはならなかったけれど、他の作品で氏は商業作家になった。そして原点に立ち返ってリライトしたのが本作『さよなら世界の終わり』だ。

 内容は万人受けしないかもしれない。性的暴行を含むいじめという名の傷害罪や、繰り返される自殺未遂、親からの虐待、育児放棄、ひきこもりを強制的に連れ出す、今で言う「引き出し屋」の様な連中まで登場する。矯正を目的とした体罰、スクールカースト、その他諸々の暴力、血、復讐、殺人と自死。そういった、この世のありとあらゆる不遇を煮詰めた様な物語が展開される。世界は優しくないし、助けは来ない。

 作中では、いわゆる『この世とあの世の境界』の様な場所が描かれる。死ぬ間際に、主人公達の魂のようなものは、その境界に立つ。現実側に引き返せば生き返る。でも、何の為に?
 世界には希望がない。生き返ったからって、それが何になる?

 自分は思い出す。確か中学生時代に、上級生が演劇発表した『グッドバイ・マイ』という物語がある。細部は忘れてしまったけれど、強烈に印象に残っている。

 舞台上には、これから生まれる魂が集まる場所がある。そこにはふたつの扉があって、ひとつは現実世界に生まれる道に続いている。でも、もうひとつの扉は無の世界に繋がっていて、そちらを選んだ魂は生まれる事なく無になる。
 そこに集まった魂たちは、老人から自分が生まれた後の境遇、運命を聞かされる。
 ひとりは自殺しようとする。ひとりは交通事故に遭う。もうひとりは身体障がい者で生まれつき両手がない。更にもうひとりは、生まれてすぐにコインロッカーに捨てられる。そんな暗い運命が待っている事を彼等は知る。

 生まれるか、無になるか。

 老人は、運命は変えられるという。ただ、変わらないかもしれない。全ての努力は無駄に終わるかもしれない。彼等は悩みながら、それでも最後は生まれる事を選ぶ。現実に生まれて、運命と戦う事を選ぶ。

 夢を前にした時、自分はどちらだったんだろうと思う。
 九分九厘駄目だろうと分かっていても生まれて、生きて、運命が変わるかもしれない方の扉に手をかけたのか、それとも痛みもなく無に消えて行ける扉を選んだのか。

 後者だったような気が、今はしている。
 それでも無になる事ができないまま、今も生きている。

 『グッドバイ・マイ』が描いたのは、可能性を信じろとか、諦めなければ夢は叶うという様な類の根性論ではなく「きっと世界は無常で、それでも君達は生きて行くんだ」というメッセージだったのではないかと思う。それと同じメッセージを、自分は本作『さよなら世界の終わり』から感じ取った。世界は無常で、待っていれば誰かが助けてくれるという事もない。希望の光は遠くて、暗くて細い道がどこまでも続く。そんな世界を傷付きながら、自分達は歩いて行く。なぜ? 何の為に?

 それを探している。ずっと、ずっと探し続けている。

  

テーマ : 本の紹介
ジャンル : 小説・文学

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黒犬

Author:黒犬
映画と小説を主食に生きている。
地方の片隅で今日も黙々生息中。

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