アレクサンドル・ベリャーエフ:著 馬上義太郎:訳 『合成人間ビルケ』

 ふと思う。自分がライトノベルと言われる様な小説を熱心に読む様になったのはいつからだろう。題するなら、『一人の本好きな少年は如何にしてライトノベル読みになったか』ってそのまんまだな。

 小さい頃から本が好きな子供ではあったので、小学校でも中学校でも図書館はよく利用していた。今では読んだ本のタイトルも殆ど思い出せなくなっていたりするけれど、児童文学と言うんだろうか、SFの長編や短編集を熱心に借りて読んだ記憶がある。中には強烈な印象を残した作品もあった。本作もその内の一冊。首だけになった人間が機械によって生命維持をしているとか、人の首を挿げ替えるとか、その設定だけでも当時の自分にとって斬新だった。表紙からして物凄いインパクトだったし。
 更に、そのインパクトだけではなくて、人が生きて行くという事、死ぬという事、そもそも生命とはどういうものなんだろうという問い掛けが、この作品を奥深いものにしている。そして何より、そうした大きなテーマを内包しながら少しも説教臭くなく、子供が読んで素直に面白いと感じられる作品だという事に一番の価値がある。

 今少し気になって調べてみたら、『ドウエル教授の首』というのが元々のタイトルで、作者はロシアのアレクサンドル・ベリャーエフ。『ソ連のヴェルヌ』とも言われたSF作家だったそうだ。子供の頃は作家なんて気にせず作品それ自体に対する興味だけで読書をしていたので、今こうして作者本人の名前や生涯を知ると感慨深い。
 ベリャーエフは脊椎カリエスを発症して首から下の自由をなくし、回復するまでの6年間を寝たきりで過ごさなければならなかった過去があった。その時の経験が、後に作家としての処女作『ドウエル教授の首』を執筆するにあたって生かされたという。やはり物語というものは何も無い所からは生まれてこないのだなと思う。

 『ドウエル教授の首』は『合成人間ビルケ』以外にも様々なタイトルで出版されていた様で、『ダウエル教授の首』『合成人間』『生きている首』『いきている首』等のバリエーションがある様だ。後に映画化もされている。書籍は今はその多くが絶版らしく、新品で手に入るのは『いきている首』だけの様だけれど……何だか少し見ない間に随分とライトノベル風というか、漫画調な表紙になっている。昔の表紙が好きだったんだけどな。

 他にもタイトルは思い出せないけれど、『惑星移民を乗せた宇宙船の「外」を目指して脱走を図った男が辿り着いた先は、既に到着していた地球型惑星の大地だった。実は惑星移民達は住み慣れた宇宙船での暮らしを捨てられず、目的地へ到着した事実を隠蔽し、外の世界から自らを隔離して暮らしていたのだ』という内容の作品はもう一度読んでみたい。何かSF短編集の中の一作だった気がするんだけれど、内容がうろ覚えの上、作者もタイトルも思い出せなくて実現していない。まさか母校を訪ねて「昔読んだ本が忘れられないので探しに来たんですが図書室を使わせてもらっていいでしょうか」という訳にも行かないし。

 図書室と言えば偉人の伝記とか、純文学の古典とか様々な作品があると思うけれど、そうした『読書感想文の課題図書』的なものに対する興味よりもSFに対する興味が勝っていたあたり、いかにも自分らしい。そこから直接ライトノベルに繋がったという事は無いだろうけれど、自分が本読みになった原点は間違いなくあの頃だった。

 というわけで、今改めて『合成人間ビルケ』もとい『ドウエル教授の首』を読んでみたくなったのだけれど、岩崎書店様、そろそろ再販しませんか?ベリャーエフ全集とかでも構わないのですが。

 ※平成26年1月21日追記
 『ドウエル教授の首』新しい単行本が刊行されました。

 <関連項目>
 
 Wikipedia『アレクサンドル・ベリャーエフ』

 

テーマ : 本の紹介
ジャンル : 小説・文学

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> さん

コメント、ありがとうございます。
非公開コメントで頂いたのでお名前とコメントの内容は伏せさせて頂きますが、とても素敵なコメントだったのでどうしてもお礼が言いたかったのです。ご容赦を。

さて、同じ物語を好きでいてくれる誰かがいる事は、本読みにとってとても嬉しい事です。本は、そして物語は、時代や世代を超えて行く事が出来ます。同じ物語に触れる事を通じて、自分達は様々な事を語り合う事が出来るし、作品に対する思いを共有する事も出来ると思います。人種や性別、国籍や信仰を問わず、自分達は本によって、物語によって繋がる事が出来る。それは物語が持つ大きな力ですね。そんな力を持つ物語が、これからも受け継がれて行って欲しい。そう切に願っています。
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地方の片隅で今日も黙々生息中。

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