非日常への跳躍・三崎亜記『バスジャック』

 この短編集に収録された物語は、どれも現実から少しだけ非日常側にずれた世界で展開する。これは以前感想を書いた『となり町戦争』とも重なる。現代人は退屈な日常から逸脱したいという欲求を常に持っているのかもしれない。以下収録順に感想等。

 『二階扉をつけてください』
 今の若い人には、『世にも奇妙な物語』風と言っても通じるかどうか定かではないけれど、丁度あのドラマでやっていそうな内容。
 料理に例えると、素材は人間、味付けは恐怖というより奇妙、情報の共有とその前提としての人間同士の繋がりは大事だねというのが隠し味、最後にブラックユーモアを少々。これが意外と美味。

 『しあわせな光』
 4ページの掌編。家の窓から漏れる明かりとその意味。失ったものへの憧憬と、これから進む先に見えた光。掌編らしい綺麗な構成。

 『二人の記憶』
 家族であれ、恋人同士であれ、きっと互いの事を完全に理解するなんていう事は一生かかっても出来ない。その前提に立って、それでも誰かと共に生きる事を選択する事の意味と価値。

 『バスジャック』
 表題作。決まりきった日常を生きる現代人の暮らしを、決まった経路を運行するバスになぞらえて、そこから逸脱する為の方法としてバスジャックが流行するという架空世界を描きつつ、非日常への跳躍を待望する現代人の現実を描く手法は秀逸。

 『雨降る夜に』
 何だか全ての本読み男性の為に書かれた様な掌編。(笑)
 現実にはこんな事はないとしても、とりあえず未読本を積む事と、人を招き入れるにはちょっとどうしたものだろうという雑然とした部屋だけはどうにかしようと思った。開館予定はまだ先になりそうだ。

 『動物園』
 本物と偽物。プロフェッショナルであるという事。自分の求める姿を、他者から強制されるのではなく自ら規定するという事。そういう生き方をする事は難しいが、同時に憧れもある。

 『送りの夏』
 大切な存在との別れ。送り出す側の葛藤や後悔は尽きる事が無い。きっと誰かを送る時、そこには自分の中の何かも一緒に送り出されている。送る側と送られる側、そしてそれを待つ者達のゆっくりとした時の流れ。現実がこれだけ優しければどれ程良いかと思う。

 以上。皆素晴らしい作品だった。特に掌編については、これだけの文字数で豊かな物語が描けるものなんだなと、改めて小説の凄さを思い知らされた様に思う。

 

テーマ : 本の紹介
ジャンル : 小説・文学

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バスジャック 三崎亜記

奇想炸裂の快作から、胸を打つラブストーリーまで。 日常を揺るがす驚きと感動の全7編。掌編・短編・中編を収録。 軽妙なブラックユーモ...

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